夕食と課題研究グループ作業を終え、時刻は19時半を回ります。いよいよ「創造性の育成塾第18回夏合宿」最後の講義、東京大学・慶応義塾大学教授で「創造性の育成塾」塾長代理を務めておられる鈴木寛先生のお話です。
「夏合宿はほとんど終わりを迎えつつありますが、皆さん元気ですか。私の話は理科とかの話ではないので気楽に聞けると思います。」最終日前日、夜遅い時間の講義に臨む塾生を気遣いながら、先生は優しく話始められました。
スライドの表紙には、育成塾初代塾長で、2020年にお亡くなりになった有馬朗人先生のお写真が。鈴木先生は、生前の有馬先生のご経歴に触れ、「未来の科学者の卵を育てたい」と有馬先生がこの塾を創められた理由を説明されました。創始初期から毎年講義をし、有馬先生亡き後も、その意思を継いでこられた鈴木先生。「有馬先生という素晴らしい方がいらっしゃったことを、ぜひ覚えておいてください。」有馬先生を直接知らない塾生に向けて、一言そう想いを述べられました。
鈴木先生自身のお話に移ります。得意不得意に関わらず理系科目にも興味があった高校時代は、大学でどの道に進むべきか葛藤があったそうですが、最終的に政策で日本の学術研究を応援する立場に回ることを決めました。さらに、大学時代にコンピュータに興味をもったことをきっかけに、通商産業省入省後、携帯電話とインターネット通信の普及政策に尽力されます。官僚時代、日本のインターネット社会変革を推し進めた鈴木先生から見て、近年の人工知能の動向はどう映るのでしょうか。「人工知能には、ネット以上に社会を変える力があると思っています。皆さんは、人工知能を使ってどう世界を変えるのか考え実行する、まさにその主役なんです。」と力を込めます。
その他にも、医療や教育、文化面において先生が最前線で関わってこられた社会イノベーションを紹介されました。理科が好きで集まった塾生が多い中、鈴木先生のように、大事だと思う政策を立て、世の中を説得して学術研究を応援する、そんな「プロデューサー」も塾生から出てきてほしいと話しました。そして、「今ある理科好きの気持ちを大切にすれば、政策をつくる側になった時にも役に立つ。研究者のように新発見はできなくても、本質をとらえ理解できることができればいい。そして、科学技術を産業にするには歴史に強くなることも大事です。」 と塾生たちに語りました。
学術研究は、その時の社会の動向や世論に大きく左右されます。冷戦時代のアメリカの宇宙開発政策を例に、技術と社会の影響パターンを、歴史から把握することの意義を説明されました。まさに文理融合したこの科学技術史も大学で教えている鈴木先生。将来の塾生との再会と、創造性の育成塾の末永い存続を切に願って、講義を終えられました。
(14期生 梶川広樹)