「創造性の育成塾・夏季合宿レポート」⑦=8月10日

 「創造性の育成塾」の第2回夏季合宿が4日、山梨県富士吉田市の「(財)人材開発センター、富士研修所」で開講した。今年のテーマは「化学」が中心。全国から選ばれた理科好きの中学生40人に対し、ノーベル化学賞受賞者の白川英樹さん、同賞授賞の李遠哲さん(台湾)をはじめ、わが国屈指の科学者、研究者、教師が、11日までの9日間、講義、実験、講話を続ける。
昨年の第1回合宿(物理)は各方面から高い評価を受け、今年は企業の研究所のノーベル賞候補の研究者の講義や実験が新たに加わったほか、授業の模様が初めてライブ配信される。富士山登山なども盛り込んだ計約3000分のカンヅメ授業で、塾生たちが将来の科学者への夢をつかんでくれることが期待される。毎日の授業の模様を報告する。

 

『1時限目』-「分子生物学入門」=伊藤 聡・小平市立第六中学校教諭

 DNAについての説明をした後、「私たち自身は、設計図(DNA)に基づいて作られている」と、先生の話。DNAには4つの物質(塩基)しかない。その4つの記号の羅列を、アミノ酸に翻訳する。DNAが、複雑ながらも自分達で翻訳できるということを実感した後、タマネギのDNA取り出す実験にかかった。
洗剤と水と一緒にミキサーにかけたタマネギに、食塩を加え、ゆっくりかき混ぜ、ろ過する。エタノールを加えて軽くゆすると、もやもやした糸状の物質が液体の中に発生。これがDNAである。塾生は、出てきたDNAをピンセットで取り出したり、見入っていた。「初めてDNAを見た。こんな風に目で見えるなんて、感動した」との声も聞かれた。

 

『2・3時限目』-「空飛ぶタネ」=下田 治信・昭島市立福島中学校教諭

先生が持ってきた、ガガイモやカエデ、フタバガキ、ツクバネなどの、回転翼を持つタネの実物を塾生の目の前で飛ばした。タネは風に乗り、くるくると回りながらゆっくりと落ちる。その様子を観察した後、塾生自らが、発泡スチロールでできた特殊な紙とコルクを用いて、“空飛ぶタネ”を作った。
その後、アルソミトラという植物の種子の形を参考に、滑空する翼を持つ種子の形の研究。それぞれ創意工夫を凝らした翼をもった種子を持ち、研修所の庭に出て、誰の“タネ”が1番遠くまで飛ぶかを競争。夏の日差しの中、塾生たちは何度も“タネ”を空に放った。

 

『4・5時限目』-「虹でとらえる物質の姿」=江崎 士郎・世田谷区立梅丘中学校主幹

 この時間のテーマは「光」。最初に、私たちの目に届く光がどのような色でできているのか、分光器を作る。今回は、回折格子(透明なプラスチックやガラスに線を引いたもの。使用したのは1ミリあたり500本引いてあるもの)を使う。
箱を切り取って組み立て、スリットを開けて回折格子を貼る。反対側から箱を覗くと、スリットから入る光が分光されて、虹が見える。細かい切り貼りの作業に、得手不得手が見られたが、塾生は丁寧に作業をしていた。
続いて、今度はさまざまな色の光を混ぜるために、三色合成器を作る。基盤に、発光ダイオード、抵抗、スイッチをつなぎ、ハンダ付けをするという作業。塾生は、慣れないハンダごてに四苦八苦していた。作業を持ち越す塾生もいたが、回路のつなぎ方、家での作業方法を教えてもらい、材料を持ち帰った。

 

『6時限目』―「アインシュタインの世紀」=有馬朗人・塾長、元東大総長、元文部大臣

 「創造性の育成塾」最後の講義はアインシュタインが取り上げられた。
まず、アインシュタインが相対性理論ではノーベル賞を受賞できなかったのは、当時ヨーロッパで反感をかっていたユダヤ人だったのが理由だったエピソード、また、相対性理論を世に出した1905年から100年の一昨年、2005年は「世界物理年」として世界中で祝ったことに触れた。
続いて、そのアインシュタインの偉大な業績を解説した。
最初に取り上げたのは、17世紀から繰り広げられた「光は粒子か波か」の論争に20世紀に入ってアインシュタインが「光は粒子であり、波でもある。両方の性質を持っている」と結論を下し、論争に終止符を打ったこと。また、アインシュタインの3大理論①光量子仮説(量子力学)②ブラウン運動(分子の存在の確立)③特殊相対性理論(4次元空間の力学)―をパワーポイントを使って、分かりやすく説明した。

 

理、数の学力低下は正しくない
講義の後で、有馬先生が最近、訴えている「世の中に喧伝されている日本の理、数の学力低下論は正しくない」の主張を展開した。「国際比較を持ち出して1,2位だったのが5,6位に低下したことをもって、理数の学力低下が世間で言われているが、1,2位の時は参加国が少なかった。その後、教育に力を入れている北欧など新たな参加国が増えた結果で驚くことではない」として、文部科学省の調査結果(2001年、2003年比較)を示し、「むしろ小、中学生とも上がっている。皆さんの時期に上がっている。自信を持って下さい」と塾生たちを励ましていた。
さらに、「それより問題なのは日本ほど教育費を出さない国はないこと。初等中等教育ではGDP(国内総生産費)比で世界のビリから3位。大学では50カ国中50番。その穴埋めは家庭の教育費出費と教員たちの努力です。ご両親と先生に感謝しなさい」と教育の現状を憂える話を力説した。

 

『閉塾式』

今日で、合宿の授業は終わった。一人一人に有馬先生から第2回「創造性の育成塾」の修了証書が渡された。
有馬先生は42人の塾生に「現代の子供たちは知識力はあるが、応用力不足。この合宿で学んだことを、さまざまなところで応用していってほしい。国際的に見ても、理数科目の成績は良い。しかし、理科・数学が好きかと聞かれると、欧米では学力が足りなくでも皆が手を上げるので、順位は上位。日本、台湾の順位はがくんと下がる。遠慮せずに、好きなものは好きと、はっきり言えば良いと思います」と語った。
だが、合宿中に塾生が積極的に講師の先生方に質問をしていたことを評価し、「質問も遠慮していては、グローバリゼーションの世の中でやっていけません。よく勉強し、よく遊び、大きな志を持って進んでください」と励ました。

 

『ミニコンサート』

夕食後、合宿所のロビーで、塾生による即興のミニコンサートが開かれた。自由時間に練習を、と楽器を持参していた塾生たちが、ピアノとバイオリンの演奏を披露した。ピアノは「月光・第3楽章」(ベートーベン)、バイオリンは2人の連奏で、「ドッペルコンチェルト」(バッハ)。ロビーに集まった塾生と、有馬先生、塾の運営担当の先生たちは、演奏に耳を傾け、大きな拍手を送った。
「理科だけでなく、広く興味を」と多くの講師がアドバイスしていたが、塾生たちは、既に他にもいろいろな得意分野を持っていたことが、合宿のさまざまな場面でも見られ、彼、彼女達の将来に期待が持てた。

※「創造性の育成塾・夏季合宿レポート」(2007年)の記事を事務局にて再編。再収録しました。
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