第1回夏合宿(関本・有馬塾) ⑫ ― 塾を終えて ー

 全国から選ばれた、理科が大好きな中学2年生40人を集めて、富士山麓の、山梨県富士吉田市、「経団連・人材開発センター研修所」で12日間の日程で繰り広げられたノーベル賞学者をはじめ、日本屈指の科学者による講義、気鋭の理科教師による授業やおもしろ実験の合宿「創造性の育成―関本・有馬塾」が11日、無事終了した。
このような、科学少年による合宿はかつて例がなく、「我が国が目指す『科学技術立国』の担い手育成への礎」になったといえるだろう。
生徒の声、授業や生活指導をした先生、有馬朗人・塾長(元東大総長・文部大臣)の声をもとに、合宿を振り返った。

 

 

原子・光に興味―授業・実験

 67時間に及ぶ授業や実験の中で、繰り返し出てきたのが、原子の構造、光の性質についてだった。
ニュートリノ研究の第1人者、小柴昌俊・東大名誉教授(ノーベル物理学賞受賞者)は宇宙の彼方から飛んでくる原子よりも小さな素粒子「ニュートリノ」の研究が、宇宙誕生の秘密を解き明かすカギになること、岐阜県飛騨市の観測施設「スーパーカミオカンデ」での観測方法などを解説。
外村彰・日立製作所フェロー(文化功労者)は、電子顕微鏡で見る、原子の中身について、写真や動画を交えて紹介した。有馬塾長をはじめとするいくつかの授業では、かつて理論物理学者が大論争をした、光の性質「粒子なのか波なのか」の話が繰り返し説明され、実験もした。高校で勉強する三角関数を使った計算もした。
北原和夫・国際基督教大学教授の授業ではアインシュタインの相対性理論を数式で検証した。
これらについて塾生の関心は高く、授業の後には質問の列ができることもたびたびだった。

 

<塾生>
・学校で習っていた光について、その性質や屈折する理由など深く勉強できた。【島根県 土江宏和くん ほか】
・原子は原子核と電子からできていることは知っていたが、原子核の中は、陽子、中性子、それよりもっと小さいクォークなどからできていることがわかった。【山梨県 勝又光孝くん ほか】
・光の性質が解明されるまでに、(ニュートンやアインシュタインなど)たくさんのすごい人たちが悩まされていたことにびっくりした。【島根県 中奥忠治くん】
・物質を核分裂でエネルギーにできることを習ったので、二酸化炭素を有効なエネルギーとして利用する方法をいつか研究できるよう頑張りたい【東京都 村田俊樹くん】

 

グループ別自由研究

 8月6・7日の2日間、グループ別の自由研究(担当:瀧川洋二・東大客員教授ら)に取り組んだ。
授業の冒頭、仮説の設定、実証、分析、発表など、プロセスだけを教わり、内容は全て塾生の手作り。テーマは温度に関するものなら何でも可。具体的な研究方法も塾生達が考え、発表も自ら行った。“塾生による本格的な研究”は、この合宿の大きな山場だった。

<瀧川・東大客員教授>
全国の中、高校で、この種の実験が行われたのは初めてではないか。塾生の次々に繰り出す工夫、発想には舌を巻いた。しかも、大変難しいテーマに挑み、それぞれ成果を得ていたことは貴重だ。<塾生>
・日常的なことでも「なぜだろう」と考えるクセがついた気がする。また、理由を順序だてて論理的に説明できるようになった。【静岡県 齋藤成之くん】
・失敗しても落胆せずに挑み続けたり、方針を変える柔軟性を身につけることができた。【茨城県 宮部裕史くん】
・同じグループに頭のよい人がいたので、その人に負けたくないと思って頑張ったら、いいアイデアが次から次へと出てきた。自分で自分にびっくりした。【石川県 吉田彩乃さん】

 

ノーベル賞学者、財界首脳から科学少年たちへのアドバイス

 合宿の最大の特徴は、ノーベル賞学者はじめ、世界を代表する日本人科学者達による授業だった。
江崎玲於奈・横浜薬科大学学長(ノーベル物理学賞受賞者)からは「自らの限界を超えるために二元論的(ヤヌス論)な視点で物事を見ること」、戸塚洋二・東大特別栄誉教授(文化勲章受章者)は、「自然界の構成要素である『時間・質量・長さ』に限りはあるのか」。
また、夜の講話では三村明夫・新日鉄社長、経団連副会長や、岡村正・東芝会長、経団連副会長など財界の首脳も、「21世紀の日本経済が直面している状況」、「科学技術立国の必要性」を話した。
自らの体験談も交えた話も多く聞かれ、塾生達は科学者を目指す上での話だけでなく、どう生きるかを考える上でも大いに参考になったようだ。

 

<塾生>
・(戸塚先生の授業で)長さや温度などが有限なのに加えて、これまで無限だと思っていた時間でさえも限りがあるというのが最も印象的だった。【石川県 坪田智之くん】
・(三村先生、有馬塾長の話を聞いて)日本は資源もなく食糧もないので、科学・技術をもっと伸ばして今の生活ができるようにしなければならないと思った。【石川県 坪田智之くん】
・どの先生も何回失敗したって、自分の意志を貫いて努力してきたのだと感じた。努力した人はいつか必ず報われると思う。理解できないところもたくさんあったのでこれから一生懸命勉強をしていきたい。【青森県 杉林花那子さん】
・江崎先生の(言っていた)、物事を2つの面から見るということを実践していきたい。【東京都 齋藤大之くん】
・江崎先生に直接質問することができてよかった。【島根県 須田翔太くん】
・二度とできない体験をすることができた。自分に自信を持ちたい。【石川県 田中理恵さん】

 

<瀬田栄司・東京都中学校理科教育研究会会長>
「『ノーベル賞学者など一流の学者から話を聞けた』そのことが子供達にとって何より。今はわからなくてもいい。(大学などに入って)また勉強した時に、あ、このことかと思えばいい」

 

理科好き少年少女の交流の場に

全国から集まってきた40人の塾生が交流できたことも成果の1つだろう。
同い年、しかも全員が理科好きということもあってか、12日間であっという間に仲良くなった。

 

<塾生>
・仲間がいれば、勉強はやってもやっても飽きないということを感じた。【石川県 吉田彩乃さん】
・(塾生同士で)話をしている時、全国の訛りが入り混じる。いろんな地方の人と友達になれてよかった。【東京都 村田俊樹くん ほか】
・もう少し塾生同士で遊べる時間がほしかった【神奈川県 日塔和宏くん】

 

有馬塾長の塾を終えての感想

今回の合宿で最も重要だったことは、塾生が元気で、しっかりと話を聞いて、難しくても理解しようとし、手を動かして実験し、実験の報告を書くことを訓練したこと。
小柴先生や江崎先生、戸塚先生など難しい話をしていた。大学で習う内容もあったので、中には、今の段階では全くわからないこともあったかもしれない。しかし、学んだということを頭の片隅においておくと、きっと役に立つだろう。
グループ別自由研究では訓練すれば、目的・仮説・実証・分析・結論という実験の心得を十分にできることがわかった。
塾生達には、この2週間の経験を一生の思い出にしてほしい。

 

このシリーズ執筆者の感想

授業を聞いていて、これが中学2年生の内容かと思うほど、専門的な内容や計算式が出てきた。大人である私が聞いていても十分聞きごたえがあり、勉強になる(一部理解に苦しむ)内容であった。含蓄に富んだ人生論もあった。実際、塾生の親から「大学生の息子が聞きたいと言っているのですが、連れてきたらダメですか」などの声も事務局に届いた。そんな内容の講義を、塾生はよく聞き、よく考え質問した。必死に喰らいついていく姿が印象的だった。
また、授業や生活指導を担当した現役教師達からは、「さすがは理科好きの子供達。目の色が違う。自分の学校の生徒もこれだけ意欲的だったら授業がはかどるのに」とのつぶやきも聞かれた。

※「スーパー先生と子どもたち」(2006年)の記事を事務局にて再編。再収録しました。

タイトルとURLをコピーしました