7月29日 2時限目
永井 良三 自治医科大学 学長(元 東大病院長)
「医学と科学:さまざまな考え方を理解する」
「医学は単に科学的な考え方では難しい」と話を切り出した永井先生。
科学的医学、統計的医学、社会医学、それぞれまったく違うことだが、統合することが大事だと永井先生は言います。
先生は、アリストテレス、デカルト、カントと聞き覚えのある哲学者の名前を挙げて、科学の考え方がいかに発展してきたか、そして科学が生み出した最先端の技術がどのように医学に取り入れられているかを紹介しました。レーザーメス、共焦点蛍光顕微鏡、タンパク質の構造解析、心臓手術のシミュレーション、科学による多くの成果に塾生たちは目を丸くしていました。
「ここまでは、科学の考え方。医学には別の考え方がある」。
合理的な理屈から生命を診断するという科学的な考え方とは異なり、理屈に縛られることなく現実に起こっていることをそのまま記述する統計医学に触れました。もうひとつ、社会を見ていく視点も必要だと先生は強調します。
今後日本の人口は減っていき、財源も減っていくだろうと考えられる中で、限られた資源を有効に使う医学も必要だと先生は語ります。高額な抗がん剤をはじめとした最先端の医療が現在の医療制度を圧迫する懸念があるそうです。また、診察を受けた患者さんの中には分析に終始する不気味さを覚える方もいるそうです。分子や細胞のことだけでなく、社会のことや患者さんのことも見ていかなければいけません。ヒポクラテスの言葉を借りて、「人間への愛のあるところに医術への愛がある」と先生は言います。
また、科学的、統計的、社会的な視点は、医学だけでなく、社会に接するすべての科学に見られる側面です。学問を木になぞらえたデカルトによる喩えにおいては、自然法則による幹のさきに、諸科学の果実が連なっています。ひとつの果実だけを目指していくのでなく、ときに幹や根まで戻ってもよい、そう先生は塾生を励ましました。医学を志す塾生もそれ以外を目指す塾生も、多角的に学術に接する大切さを理解できたようです。
(一期生:佐々木駿)
研究内容
心臓病の臨床医として仕事をしながら、心臓、血管、代謝システムの分子生物学を開拓。
略歴
昭和49年 東京大学医学部医学科卒業
昭和58年 米国バーモント大学留学
平成5年 東京大学医学部第三内科助教授
平成7年 群馬大学医学部第二内科教授
平成11年 東京大学大学院医学系研究科循環器内科教授
平成15年 東京大学医学部附属病院長
平成21年 最先端研究開発支援プログラム「未解決のがんと心臓病を撲滅する最適医療開発」 中心研究者
平成21年 東京大学トランスレーショナルリサーチ機構長
平成24年 自治医科大学学長
受賞歴
平成10年 ベルツ賞平成12年 持田記念学術賞
平成14年 日本動脈硬化学会賞
平成18月 日本医師会医学賞
平成21年 紫綬褒章
平成22年 日本心血管内分泌代謝学会 高峰譲吉賞
平成24年 European Society of Cardiology (ESC) Gold Medal
平成27年 岡本国際賞