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7月30日 3時限目

村下 湧音 東京大学上田研究室 博士課程2年(物理オリンピック)
物理オリンピック体験とその周辺


中学生の頃から物理チャレンジに参加し、高校の三年間はいずれも国際大会に出場した村下先生。さらに、大学進学後も運営に携わった経験をお持ちで、今回は、物理オリンピックについて選手・運営の両面からお話ししてくださいました。

はじめに、国際大会までの道のりの説明です。
世界に行くためには、まず「物理チャレンジ」に参加しなければなりません。 第1チャレンジは、与えられた課題をもとに、自宅や学校などで自由に実験を行う実験課題レポートと、試験形式で行われる理論コンテストの2つで競います。 実験では、水の密度の測定や5円玉振り子の挙動の解析など、身近なものが題材になることが多いそうです。一方、理論コンテストでは、基本的な問題からかなり頭を使う問題まで、幅広いレベルから出題されるとのことで、「どんな学力レベルの人が受けても楽しめると思います」と、塾生に参加を促しました。



第2チャレンジは3泊4日の合宿形式で、国際物理オリンピックさながらのボリュームがある理論試験と、実験試験が行われます。 理論試験の内容は高度で、大学院入試レベルの問題も出題されます。しかし、丁寧な誘導があるため、しっかりと自分の頭で考えれば解くことができるそうです。
一方の実験試験は、与えられた実験器具で必要なデータを取ることを求められます。分量がとても多いため、手際のよさと、これくらいデータを取れば大丈夫だ、という見極めが重要だと先生は言います。
そして、第2チャレンジを突破すると、半年に及ぶ添削指導の後、3月の春合宿において代表選抜試験が行われ、国際物理オリンピックの日本代表が決定します。



次に、国際物理オリンピック本番について。
理論試験・実験試験は、それぞれ5時間と長いですが、試験以外の時間は、観光や参加者同士で国際交流を図る時間が豊富にあるそうです。 先生は、ご自身が参加された大会から、ビーチフラッグ大会やボートでの川くだり、また他国の選手に折り紙を教えている様子など、写真を交えて紹介してくださいました。



ここで塾生から、「国際大会に出るには、英語ができないといけませんか?」という質問が出ました。先生は、「試験を受けるという意味では英語ができなくてもまったく問題ありませんが、英語ができないと国際交流の時間には孤立してしまう可能性があります。しかし、流暢に話せる必要はなく、片言の英語同士で交流を図るのもひとつの醍醐味です。」とアドバイスをいただきました。


続いて、派遣委員として物理オリンピックに携わった経験をお話ししてくださいました。 まず国内での仕事には、添削指導の補助や合宿の手伝い、また、すでに過去のオリンピック問題にすべて取組んでしまった学生に向けに問題作りなどがあるそうです。 国際大会においては、問題の検討や翻訳、調整作業を行うそうです。問題は主催国が作成しますが、細部は参加国の引率者を含めディスカッションを行い、調整するとのことです。さらに試験後には、答案のうち日本語で書かれている部分について主催国の担当者に説明し、評価を調整するそうです。



最後に、物理オリンピックに参加する意味について語ってくださいました。
物理チャレンジや訓練合宿を通して知り合った、同じ方向性の興味を持った仲間とは今でも旅行に行くなど交流があり、中には共著で論文を書くなど研究活動にもつながりを生かしている方がいらっしゃるそうです。勉強・研究は一人でやり遂げるのは難しいですが、オリンピックを通して知り合った仲間が支えになることもあるとのこと。 「育成塾に参加されている皆さんも、このつながりを大切にしてください。10年後共同研究しているかもしれませんよ。」とメッセージをくださって講義をしめくくりました。

(2期生:田崎慎太郎)


略歴

1990年 広島生まれ
2009年 私立灘高等学校卒業
2013年 東京大学理学部物理学科卒業
2015年 東京大学大学院理学系研究科物理学専攻修士課程修了

研究業績

非平衡統計力学基礎論に関する論文4報(うち査読付3報)

受賞歴など

物理チャレンジ2005:金賞
物理チャレンジ2006:金賞
国際物理オリンピックシンガポール大会(2006):褒賞
物理チャレンジ2007:金賞・県知事賞(最優秀賞)
国際物理オリンピックイラン大会(2007):金賞
物理チャレンジ2008:金賞・県知事賞(最優秀賞)
国際物理オリンピックベトナム大会(2008):金賞
2012年度東京大学理学部学修奨励賞
2014年度東京大学大学院理学系研究科研究奨励賞


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