レポート一覧

一流の講師陣による講義・実験の様子をレポートします。



7月28日(金) 5時限目

岡野 栄之
慶應義塾大学 医学部長

「iPS細胞技術と健康長寿」


 「社会情勢を理解した上で、それにどう医学が貢献できるのかを考えることが大切なことです。」と、講義を始められた岡野先生。この講義では、現在日本が直面している少子高齢化にどう医療が貢献できるかをお話くださいました。

 「ここ70年で日本人の平均寿命が延びた一方、子どもの数が増えなかった為に超高齢社会になってしまった。私達はこの事態にどう対処していったら良いのか、早速考えてみましょう。」と、岡野先生。
中でも先生が強調されたのが、将来病気になる可能性のある人を病気にならないように予防する「先制医療」です。岡野先生は、病気になる可能性の高い高齢者に注目し、「高齢者が元気でいるためには二つのことが重要だ。それは、認知症でないことと体を動かせることだ。そこにiPS細胞が役に立つのだ。」と仰いました。

 多能性幹細胞を理解する上で基礎となる、細胞や受精卵の発生について一つ一つ丁寧に説明された後、「ES細胞では解決できなかった倫理的な課題や免疫系の課題を解決したiPS細胞が、研究で盛んに用いられている。」と、まずはiPS細胞について解説してくださいました。次に、iPS細胞が、認知症でないことと体を動かせることに、どのように役立つのかを説明してくださいました。

 認知症の主な原因はアルツハイマー病にあり、その診断や、早期治療、予防にiPS細胞が活用できるといいます。アルツハイマー病の患者さんの体細胞からiPS細胞をつくると、わずか2週間ほどでアミロイドβ(アルツハイマー病発症の目印となる物質)が増えることが確認されました。アルツハイマー病は発症までに30年以上かかることが知られていますが、iPS細胞を作製すればたった2週間で自分が将来アルツハイマー病にかかるのかどうか分かるということです。これにより、アミロイドβの蓄積を抑える早期治療や予防も可能になると仰います。iPS細胞を用いた研究により、治療薬なども開発が進められているとのことです。

 体を動かせなくなることの原因は脊髄損傷にあり、再び体を動かせるようになるには迅速な治療が肝心だと、岡野先生は仰います。脊髄損傷の治療では、体細胞からiPS細胞をつくり、それを神経幹細胞にして、患者さんに移植します。しかし、iPS細胞の作製や、安全性の検査に時間がかかるため、移植までに1年以上かかります。そこで、患者さんと同じ白血球の型を持つ人の神経幹細胞を予めつくっておいて、発症したらすぐに患者さんに移植できるようにしているそうです。

 「長生きするようになって病気が出てくるなら、早期発見して先制治療を。」と仰る岡野先生。
「少子高齢化を皆さんの叡智で乗り越cえていってください!」と塾生にエールを送られました。



(5期生 逸見知世)

 

講師紹介

主たる研究領域: 分子神経生物学, 発生生物学, 再生医学


略 歴:

昭和52年 4月 慶應義塾大学医学部入学
昭和58年 3月 慶應義塾大学医学部卒業
昭和58年 4月 慶應義塾大学医学部生理学教室(塚田裕三教授)助手
昭和60年 8月 大阪大学蛋白質研究所(御子柴克彦教授)助手
平成元年 10月 米国ジョンス・ホプキンス大学医学部生物化学教室(クレイグ・モンテル博士)に留学
平成 3年10月 大阪大学蛋白質研究所(御子柴克彦教授)助手
平成 4年 4月 東京大学医科学研究所化学研究部(御子柴克彦教授)助手
平成 6年 9月 筑波大学基礎医学系分子神経生物学教授
平成 9年 4月 大阪大学医学部神経機能解剖学研究部教授
(平成11年4月より大学院重点化に伴い大阪大学大学院医学系研究科教授)
平成13年 4月 慶應義塾大学医学部生理学教室教授 (〜現在に至る)
平成19年10月  慶應義塾大学大学院医学研究科委員長
平成20年 オーストラリア・Queensland大学客員教授 (〜現在に至る)
平成27年4月 慶應義塾大学医学部長(〜現在に至る)


資格・学位:

昭和58年 7月 医師免許(昭和58年5月医師国家試験合格)
昭和63年 7月 慶應義塾大学より医学博士


受賞歴:

昭和63年 慶應義塾大学医学部同窓会・三四会より三四会賞受賞
平成7年 加藤淑裕記念事業団より加藤淑裕賞受賞
平成10年 慶應義塾大学医学部より、北里賞受賞
平成13年 ブレインサイエンス振興財団より、塚原仲晃賞受賞
平成16年 東京テクノフォーラム21より、ゴールドメダル賞受賞
平成16年 イタリア・Catania大学より、Distinguished Scientists Award受賞
平成16年 日本医師会より、日本医師会医学賞受賞

平成18年 文部科学大臣表彰・科学技術賞受賞
平成19年 Stem Cells誌よりLead Reviewer Award 受賞
平成20年 井上科学振興財団より井上学術賞
平成21年 紫綬褒章受章「神経科学」
平成23年 日本再生医療学会よりJohnson & Johnson Innovation Award受賞
平成25年 Stem Cell Innovator Award受賞 (GeneExpression Systems & Apasani Research Conference USAより)
平成26年 第51回ベルツ賞(1等賞)受賞


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