一流の講師陣による講義・実験の様子をレポートします。
鈴木 寛
東京大学・慶応義塾大学 教授
文部科学大臣補佐官
毎年白熱した議論を巻き起こす鈴木先生の講義。
「3日目の夜で疲れも出る頃でしょうから、ゆっくり聞いていただければと思います」という優しい言葉で始まりました。
「創造性の育成塾の先生はほとんど理系ですが、私は法学部出身です」とご自身の経歴を紹介しながら、「現代は文理融合の時代であり、理系に進学する人も文系の学問を理解していなければいけない」と説きました。
これまで、研究者をサポートする仕事を多くされてきた鈴木先生。
ご自身の仕事をイメージしてもらうために、次のような例を挙げました。
「とある感染症が国内で流行し、100万人が感染するという予測が立てられました。しかし、ワクチンの生産は、50万本しか間に合いません。このような場合に、誰に優先的にワクチンを接種させるべきなのか。それを、専門家の意見を聞きながら判断しなければいけません」
「たとえば、感染症の専門家である医師は、ワクチンの接種が優先されるべきだ」と先生。
そして、塾生たちに議論を促します。3人1組で話し合い、「優先的に摂取するべき職業を5種類決める」という課題が出されました。
にわかに教室中が活気付き、意見交換が始まりました。
そして3分。先生が、塾生たちに答えを聞いていきます。「社長!」「子どもとか…」「一次産業の人」…塾生たちからは、さまざまな意見が出てきました。答えのない問題に取り組んでいく仕事の難しさを感じることができたようです。
「現代は、産業革命以来250年ぶりの大激動の時代だ」と先生は言います。このような時代では、必要とされる能力も変わっていきます。これからは、必要とされる能力が「問題発見・問題設定 > 問題解決」になるのだそうです。これまで重視されてこなかった問題を見つけてくることがもっとも大切だと強調しました。
さらに、「よい問題 (good question)」は、食い違いや板ばさみの状態から生まれると先生は言います。学説同士の食い違い。理論と現象の食い違い。「矛盾や葛藤を考えていくことで、ノーベル賞に近づけるのではないか」とアドバイスを下さいました。
人工知能をはじめとするコンピューターやロボットの発展、iPS細胞による再生医療の進歩など、今後の社会には予測のつかない変化があるでしょう。新しい技術によって、倫理的法律的社会的課題(ELSI)と呼ばれるような、板ばさみや想定外に遭遇することがあるかもしれません。「そういうときこそ、めげずにタフに、チャンスだと思って新しい世界を切り開ける人になってほしい」と先生はエールを送りました。
最後にELSIについて、議論のテーマをいくつか提示していただきました。
「人間の遺伝子改変はどこまで許されるのか」、「よく効くが高額な薬をどう利用するべきか」「心を持つ人工知能を作ってよいのか」。3人1組での議論が始まります。
しかし、なかなか意見がまとまらない様子です。同じテーマで議論しても、チームごとに導かれた結論はばらばらです。
ELSIはすぐには答えのでない問題ですが、科学技術を論じるうえで避けられない問題であり、これらの課題に取り組む人たちも科学の発展には欠かせないのです。
「これからもgood questionを重ねていってほしいです。どこかで再会したときに議論の続きをしましょう。」と講義を締めくくりました。
(1期生 佐々木駿)
講師略歴
現職:
文部科学大臣補佐官、東京大学公共政策大学院教授、慶應義塾大学政策メディア研究科教授、
社会創発塾塾長、日本サッカー協会理事、OECD教育政策アドバイザー
世界経済フォーラムグローバル未来委員会 委員
略歴:
1964年生まれ。東京大学法学部卒業後、1986年通商産業省に入省。
山口県庁出向中に吉田松陰の松下村塾に何度も通い、人材育成の重要性に目覚め、帰京後大学生などを集めた私塾「すずかんゼミ」を主宰。その後、官僚から大学教員に転身。慶應義塾大助教授時代は、徹夜で学生たちの相談に乗るなど熱血ぶりを発揮。日本有数のIT業界の実業家や社会起業家などを多数輩出する。
2001年参議院議員初当選(東京都)。12年間の国会議員任務の中、文部科学副大臣を2期務めるなど、教育、医療、スポーツ・文化・情報を中心に活動。再生医療推進議員連盟幹事長、東京オリンピック・パラリンピック招致議連事務局長、日本ユネスコ委員も歴任。
2014年2月より、東京大学公共政策大学院教授、慶應義塾大学政策メディア研究科教授に同時就任、日本初の私立・国立大学のクロスアポイントメント。また、大阪大学招聘教授、電通大学、福井大学、和歌山大学、千葉大学で客員教授を務める。
2015年2月、文部科学大臣補佐官就任。G7倉敷教育大臣会合議長代行。若い世代とともに、世代横断的な視野でより良い社会づくりを目指している。
著書に『熟議のススメ』(講談社、2013年)、『テレビが政治をダメにした』(双葉新書、2013年)、『「熟議」で日本の教育を変える』(小学館、2010年)など。