レポート一覧

一流の講師陣による講義・実験の様子をレポートします。



7月30日(日) 3時限目

小林 誠
ノーベル物理学賞
高エネルギー加速器研究機構 特別栄誉教授
「物理学の勧め」



 2008年にノーベル物理学賞を受賞された、小林誠先生。
創造性の育成塾での講義は、7年前の第5回夏合宿に続き、2回目です。

 はじめに、中学校では「1分野・2分野」に分けられている理科が、高校では「物理・化学・生物・地学」に分かれることを紹介し、先生の専門である物理が、化学・生物・地学とどう違うのかを説明します。
中学校で習う物理分野の内容としては、音・光、力のつり合い、物体の運動、電気・磁気、仕事とエネルギーなどがあり、「化学・生物・地学は、調べる対象がはっきりしている。それに対して、物理は、調べる対象がはっきりしていない。」と小林先生。
「例えば、物体の運動を調べるのに、ボールをよく使うが、別にボールに興味があるのではなく、現象に興味がある。自然現象の基本的法則を明らかにするのが物理だ。」と先生は話します。

 それに続き、物理学の進展を説明します。
「中学校で習う物理は、19世紀までの古典的なもの。20世紀の相対性理論と量子力学によって、物理学は大きく進展した。これら2つは、現代の物理には欠かせないものである。」と小林先生。相対性理論と量子力学については、高校へ行ってもなかなか教えてもらえないことを説明し、「『物理学はいかに創られたか』という本にはこれら2つが書いてある。これを読んだことがきっかけで、物理学を志した。」と、自身の研究者としての原点もお話しされました。

 さらに講義は続き、しだいに先生の専門の話に近づいていきます。
まずは、原子の説明です。「原子は原子核と電子から、原子核は陽子と中性子から構成されている。原子核と電子は電磁気の力で、陽子と中性子は強い力で結びついている。中性子は原子核にあると安定だが、単独になるとβ崩壊を引き起こす。これを引き起こすのが弱い力である。電磁気の力・強い力・弱い力の3つが、素粒子研究において重要である。」と小林先生。
「もう一つ、素粒子の研究で大事なのが、反粒子である。粒子と反粒子は、同じ質量を持ち、電荷が反対で、対生成・対消滅する。」と、反粒子の説明に入ります。ただ、身の回りには、反物質(反粒子から構成される物質)は存在しません。身の回りにある物質と対消滅を起こすからです。では、なぜ宇宙は反物質ではなく物質からできているのでしょうか?この疑問については、講義の最後で再び語られることになります。

 続いて、先生の研究テーマである、「CP対称性の破れ」について。
「粒子と反粒子はそっくり、すなわちCP対称だと、反粒子の発見時から考えられていた。しかし、1964年に対称性の破れが発見された。」と、小林先生。そして、ノーベル賞を同時に受賞した益川先生とともに提唱した、「小林・益川理論」の説明へ。
「u, c, tの3つのクォークと、d, s, bの3つのクォークの間で、9通りすべてのトランスミッションが起こるという6元クォーク模型を提唱した。これにより、CP対称性の破れが説明できる。」と話したうえで、これを検証する実験装置の紹介に。つくば市にある加速器について、写真や図を示しながら、原理を説明しました。


「ビックバンシナリオ」
講義の中盤に語られた、「なぜ宇宙は物質からできているのか」に対する一つの説明です。「もともとは粒子と反粒子は共存していたが、対消滅が進み、取り残された粒子が物質を構成するようになった。」「6元クォーク模型では、宇宙の進化の過程で、なぜ粒子の方が反粒子よりも多くなったかを説明できない。よって、別のCP対称性の破れのメカニズムがあると考えられる。」と、宇宙の起源について、未知のことが紹介されて、講義は終了しました。

 講義終了後も、塾生からの質問が絶えません。「光子とは何か?」「宇宙が反粒子でできていたら具体的には何が違ったのか?」「物理のどんなところが面白いのか?」「反粒子の方が粒子よりも多くなる場合があるのか?」先生はその一つ一つに丁寧に答え、講義は終了しました。
講義終了後、先生は「このレベルの質問が出てくるなら、相手が中学生であっても、話す内容のレベルを下げる必要はないな。」と、笑顔でおっしゃっていました。


(5期生 矢吹凌一)

講師紹介

現職:
高エネルギー加速器研究機構・特別栄誉教授 日本学術振興会 学術顧問

研究業績:
京都大学助手時代の1973年、益川敏英氏と共に発表した「小林・益川理論」で クォークが3世代(6種類)あることを予言し、K中間子崩壊の観測で確認されていた CP対称性の破れを理論的に説明できることを示した。 この「クォークの世代数を予言する対称性の破れの起源の発見」によって、2008年ノーベル物理学賞を受賞。

略歴:
1967年 名古屋大学理学部物理学科 卒業
1972年 名古屋大学大学院理学研究科 修了(理学博士)
1972年 京都大学理学部 助手
1979年 高エネルギー物理学研究所(現・高エネルギー加速器研究機構)助教授
1985年 高エネルギー物理学研究所 教授
2003年 高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所長
2004年 高エネルギー加速器研究機構 理事
2007年 日本学術振興会 理事
2008年 高エネルギー加速器研究機構 特別栄誉教授
2009年 日本学術振興会 学術システム研究センター所長
2017年 日本学術振興会 学術顧問

受賞歴:
1979年 第25回仁科記念賞
1985年 日本学士院賞
1985年 アメリカ物理学会J.J.Sakurai賞
2001年 文化功労者
2008年 文化勲章
2008年 ノーベル物理学賞


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