レポート一覧

一流の講師陣による講義・実験の様子をレポートします。



7月30日(日) 4時限目

上田 正仁
東京大学 教授

「考える力の鍛え方」



 「創造性の育成塾ですから、みなさんは創造性を鍛えたいと思って参加していると思います」と上田先生。創造性というと生まれ持った才能のように捉えがちですが、「創造力や考える力は、意識的に鍛えることができます」と先生は言います。「今日聞いたことを参考にして、今後の勉強の指針にしてください」と前置きして、講義が始まりました。

 筋肉を鍛えるのは、日々の鍛錬の積み重ねだということは簡単に理解できます。基礎から始めて、少しずつ荷重を増やして鍛えていきます。また、鍛錬をやめてしまえばすぐに衰えてしまうでしょう。上田先生は、「考える力も同様だ」と言います。
また、運動を続けているとランナーズハイになるように、考える力を身につけるほど、ますます考えることが楽しくなるようなポジティブなサイクルを、習慣として取り込むことを先生は勧めます。

 さらに、「優秀さには3段階ある」と先生は続けます。優秀さには「マニュアル力」、「考える力」、「創造力」という3つの指標があるのだそうです。
「マニュアル力」とは、与えられた問題を正確に速く解く力。「考える力」とは、ひとつの問題に長い時間をかけて取り組む力。「創造力」とは、自ら課題を見つけて独自の解決法を編み出す力。中学・高校の試験や大学入試では、「マニュアル力」が求められています。しかし大学に入学すると、途端に「考える力」が必要になってきます。さらに、社会や大学院では「創造力」を含めた3つの力の総合力が試されるのです。

 このように、社会の各段階に進んでいくにつれて優秀さの基準が変わっていくため、「心の準備をしてください」と先生は言います。学問に取り組みながら「マニュアル力」を養い、基礎となる型を習得することは重要だとした上で、「ひとつの課題を、数週間あるいは数ヶ月かけて取り組む力、すなわち『考える力』を鍛えてほしい」と、塾生にアドバイスしました。

 考える力を鍛えるためには、「『わからない』を『ここがわからない』に突き詰めていくことが大切だ」と先生は強調します。「わからない」にぶつかったときは、関連する資料を読み、知識を体系づけて自分の頭で整理することで、時間をかけてでも「ここがわからない」という課題を浮かび上がらせることができるとのこと。加えて、日常の小さな疑問を見落とさない洞察力も、課題探しの役に立つそうです。

 また、「考える力を鍛えるには効率を求めてはいけない」と先生は言います。たとえば、どの分野においても古典的な文献を読むことが重要なのだそうです。効率よく知識を収集するには教科書の方が適していますが、古典的な文献からは、それぞれの分野を切り開いた先人たちの考え方や哲学を学ぶことができ、それが新しい課題の源泉になるのだそうです。

 最後に、成功するための究極の鍵を先生は教えてくれました。それは「あきらめないこと」です。
自分が「ここまで」とあきらめたところが才能の限界であり、逆に言えば、努力を続ける限り能力は向上していきます。「成功するかどうかは、どこまであきらめないかということなのだ」と先生は塾生たちを励ましました。
「今は、おそらく激動の時代です。どんな危機的状況にあってもあきらめずに考え続ければ、本質的な問題を見つられる。その訓練を続けてほしいと思います。」

 講義後の質疑応答では次々と手が挙がり、「ここがわからない」をあきらめずに追究する姿勢とはどういうものか、塾生たち一人ひとりが噛み砕いているようでした。


(1期生 佐々木駿)

 

講師紹介

現職:
東京大学大学院 理学系研究科(物理学専科)教授

略歴:
1963年 大阪生まれ
1988年 東京大学理学系研究科修士課程卒、東京大学・理学博士
NTT基礎研究所研究員、広島大学工学部助教授、東京工業大学教授等を経て、
2008年(平成20年)より、現職の、東京大学大学院・物理学教授
中央教育審議会教育課程特別部会委員

主な著書:
「東大物理学者が教える「考える力」の 鍛え方」(PHP出版社)
「東大物理学者が教える「伝える力」の 鍛え方」(ブックマン社)

受賞歴:
2002年 第六回松尾学術賞
2007年 文部科学大臣表彰・科学技術賞(研究部門)
2008年 仁科記念賞
第5回(平成20年度)日本学術振興会賞
2011 Americal Physical Society Outstanding Referee Awards (*日本訳: 米国物理学会卓越審査員賞)


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