レポート一覧

一流の講師陣による講義・実験の様子をレポートします。



8月2日(水) 2時限目

小林 喜光
三菱ケミカルHD 会長・経済同友会 代表幹事

「自分・日本・地球の未来」



 2時限目は、三菱ケミカルホールディングス会長 小林喜光先生による講義です。
イスラエル・イタリアへの留学や、企業研究者としてのご活躍、また三菱ケミカルホールディング取締役社長、会長を務めるなど、様々な経験をされている小林先生。先生が塾生たちに下さったメッセージは少し意外で、しかし、とても重みのあるものでした。

 はじめに、「自分を極める」というテーマで学生時代のエピソードを語って下さいました。
時は学生紛争、「反逆」の時代。先生が大学4年生の時に、安田講堂は燃え上がりました。理念は立派だが、暴力的であった運動に先生は虚しさを感じ、生きる意味や神の存在について思いを巡らせていました。そして、解のない問いに絶望しつつも、「生きる意味を知ることが生きる意味だ」との考えにたどり着いたそうです。


 留学を経て博士課程を卒業してからは、大学に残ることも考えたそうですが、ポストがないこともあり、28歳で企業研究者の道へ。触媒や記録メディアの領域を専門としていましたが、49歳の時に、突如本社の事業責任者に任命されました。
当初は、それまで専門外であった経理の分野に困惑したとのこと。このように、理系のキャリアパスには「理系の道を進み続ける」「経営の道に方向転換する」の2つの道があるとした上で、「若いころは幅広く勉強し、自分自身の適性と照らし合わせて道を選ぶよう」にと塾生にアドバイスをしていただきました。

 次に、三菱ケミカルホールディングスが掲げる理念「KAITEKI経営」について。
KAITEKI経営とは、単に企業として利益を追求するだけでなく、Sustainability(持続可能性)・Health(公衆衛生)・Comfort(利便性)の3点を軸にして、社会に快適性を提供することを重視する経営の在り方だそうです。
例として挙げたのが、化学産業。化学産業は、かつて「汚染源」と言われていましたが、現在は、土壌や河川の汚染などの環境問題を解決するための”Solution”を提供すべく、研究・開発を行っています。
他にも、LEDや農業、ヘルスケアを重視し、中でも二酸化炭素を材料とした人工光合成の研究に力を入れているとのこと。二酸化炭素の排出削減に重点を置く「低炭素社会」から、炭素を再循環させる「新・炭素社会」を目指しているとお話いただきました。

 続いて、研究・経営に長年携わってきた先生から見た、現在の社会や未来の行く末について。
現代は、AIなど人間が自らの頭脳の限界を超越しようとしている「第四次産業革命」の最中。そのような社会を先生は複素数を用いて「z=a+bi」と表現されました。aは“atom”で「(原子でできているような)物」を、bは”bit”で「情報」を、iは”Internet“と、バーチャル空間など”Imaginary”を指しています。従来の科学技術と、AI・ビッグデータの処理による情報処理技術の2つの軸がこれからの社会を支えるということです。
そのような社会では、物質的な「モノ」ではなく、価値や意味、社会的なインパクトなどの「コト」が大事だとのこと。例えば、カーシェリングが普及することで、自動車の売り上げが減少しGDPを低下させる一方で、「快適さ」は増加します。現在はGDPが豊かさの基準とされていますが、このような「『モノ』さし」だけではなく、「快適さ」のような価値を評価するような「『コト』さし」が必要だとも述べられました。

 最後に、塾生たちにメッセージを下さいました。
「“科学”は問題を分析して論理的に考え、解決策を実行し、フィードバックする」という手法を指していて、文系・理系にとらわれず、社会・地球の中に生きる自分自身の生きる意味にこだわってほしいとのこと。そして、「人間・社会・地球の抱える問題を解決するという『使命』に生きてください」と、力強く講義を締めくりました。


 私たちは、ついつい自分の好きな分野ばかりに目が行き、視野が狭くなりがちです。幅広く学問を修め、「生きる意味」という本質的な問題を考え続け、そして、自分が社会のため何ができるか考え実行する。
人生において最も重要なことを教わった90分でした。


(2期生 貴田浩之)

講師紹介

現職:
株式会社 三菱ケミカルホールディングス取締役会長
公益社団法人 経済同友会 代表幹事

経歴:
1971年3月 東京大学大学院 理学系研究科相関理化学専攻 修士課程修了
1972年7月 ヘブライ大学(イスラエル)物理化学科
1973年9月 ピサ大学(イタリア) 化学科
1975年7月 東京大学理学博士号取得

社歴:
三菱ケミカルホールディングス 社歴: 1974 年12月 三菱化成工業 ㈱ (現・三菱ケミカル㈱) 入社
1996 年6月 三菱化学㈱ 情報電子カンパニー記憶材料事業部長
兼三菱化学メディア㈱ 取締役社長
2003年6月三菱化学㈱ 執行役員
2005年4月三菱化学 ㈱ 常務執行役員
兼 ㈱三菱化学科学技術研究センター 取締役社長
2006年6月 ㈱三菱ケミカルホールディングス 取締役
兼 ㈱三菱化学生命科学研究所 代表取締役
2007 年4月 ㈱三菱ケミカルホールディングス 代表取締役社長
兼 三菱化学㈱ 代表取締役社長
2009年4月 ㈱地球快適化インスティテュート 代表取締役社長
2012年4月 ㈱三 菱ケミカルホールディングス 代表取締役社長
兼 三菱化学㈱ 取締役会長
2015年2月 ㈱地球快適化インスティテュート 取締役会長(現)
2015年4月 ㈱三 菱ケミカルホールディングス 代表取締役会長
2015年6月 ㈱三 菱ケミカルホールディングス 取締役会長(現)


前のページ次のページ