「色って面白いんですよ」という言葉で始まった、“色の魔術師”こと小原先生の実験。塾生たちは事前に配られたキットを手元に置き、スタンバイしています。
まずは、実験キットから黒いシートを取り出します。塾生たちは、シートを観察し、どのような仕組みでこのシートに色がつくか、そしてこのシートがどこで使われているかを考えます。実は、このシートは「液晶温度計」に使われているシートと同じもので、手で触れるとその部分の色が変わります。
そもそも、「液晶」とは何なのでしょうか?小原先生は、中学1年生で学んだ「固体・液体・気体」の話を復習しつつ、「この固体と液体の中間が『液晶』という状態です」と説明しました。液晶の状態では、分子の位置に規則性はありませんが、分子の方向には規則性があるのがポイントです。世界中のすべての物質が液晶の状態を取ることができるわけではなく、「高分子」と呼ばれている一部のものでしか起こりません。
「説明を聞いているだけではなくて、実際に自分たちでやってみましょう」ということで、早速、一つ目の実験です。取り出したのは、HPC(ヒドロキシプロピルセルロース)という粉の薬品。これは、食品や医薬品に使われています。
このHPCが入った小さなビンの中に水を入れ、割りばしで混ぜ、液晶状態にします。
「液晶状態を作り出すには濃度がとても重要です。濃度がわずかに違うだけでもうまくいかないので、水は気を付けて量ってくださいね」という小原先生の言葉に、画面越しの塾生たちの目は真剣。水を慎重に量って入れ、ダマにならないように気を付けながら割り箸で練ること3分程…
しかし、小原先生のサンプルのようにきれいな色が出てこない…?と思っていると、先生から、「完成すると色が付きます。でも色が付いてくるまでに1ヶ月くらいかかるので、今日は半透明になれば大丈夫です」と聞き、必死に練っていた塾生たちは思わず拍子抜けして笑っていました。ちなみに先生のサンプルは5年前に作られたものとのこと。そんなに時間が経ってもきれいに残るんですね!
「水の多さによって赤くなるか青くなるかが変わってくるんですよ」と小原先生。自分の作ったものがどんな色になっていくか、ぜひ、育成塾が終わっても観察してみてください。
液晶には色々な種類があり、分子の並び方によってネマチック液晶・スメクチック液晶・コレステリック液晶と分かれます。冒頭で見た黒いシートも、塾生の皆さんが作った半透明のものも、一定の方向を向いている分子の層が、違う方向で重なっている「コレステリック液晶」です。
実は、先生が見せてくださった、色がついていた液晶のサンプルも、温めると色が消えてしまいます。これは、分子の並び方が温度によって変わったからです。冷えてくると、また元のように色付きの状態に戻ります。 では、なぜ私たちは液晶の色を見ることができるのでしょうか?中学1年生の時、プリズムという器具を使って白い光が分かれる「分光」を観察したことがあると思います。透明な膜があると、光の反射がずれることで「光の干渉」という現象が起きます。コレステリック液晶では、これがたくさんの層で発生するため(多層膜干渉)、新たな色が出現するのです。これを「構造色」と言います。少し難しい内容でしたが、塾生たちはメモを取りながら一生懸命に聞いていました。
構造色は、私たちの身近なところにも存在します。塾生たちは、4人グループに分かれ、身近なところにある構造色を話し合います。「セロハン?」「鏡はどう?」「オパールって宝石がなかったっけ?」など様々な意見が出ました。全体に再集合した後、小原先生がいくつか具体例を紹介。世界一美しいチョウ、モルフォチョウも構造色の一種であり、小原先生の見せてくださった標本にみんな釘付けです。「じゃあ、このチョウの羽根に、白色光ではなくナトリウムランプのような単色光を当てたらどうなると思う?」答えは各自の宿題です。
まだまだ実験は続きます。キットの中にはCDとDVDを切ったものが1枚ずつ入っています。どちらも同じポリカーボネートという素材からできていますが、違いはピット(データを記録する窪み)の数の違いから生まれるデータ容量の差です。ピットの間隔が狭いほど、データ容量が大きくなります。
「では、構造色の原理とピット数をもとにして、この2枚のどちらがDVDかを見分けていきましょう」という小原先生の言葉を合図に、塾生たちは自分の手元のディスクをじっくり観察していきます。カッターで表面の白い部分をはがし、ポリカーボネート部分だけにして、構造色を見やすい状態にすると…容量が大きいDVDの方が、構造色がよりカラフルに見られたはずです。塾生の皆さん、どうでしたか?
最も馴染みのある「液晶」と言えば、液晶ディスプレイではないでしょうか。液晶ディスプレイで使われているのは、ネマチック液晶という種類の液晶で、これに偏光板を組み合わせることでディスプレイが出来上がっています。
ここで実験キットから偏光板を取り出します。2枚を並べて置いて、光にかざしてみるときれいに見えたり真っ暗になったりします。あるいは、1枚だけを手に持って、使っているパソコンの画面を見てみても面白い結果になります。
これを利用して、小原先生が電卓の原理を実験してくれました。
液晶のバックライトの役割をするライトの上に、1枚の偏光板を置きます。その上に、水が入った小さいビンを置き、数字の「8」を作ります。この上にもう1枚の偏光板をかざすと…何も起きません。次に、ビンの一部を水あめが入ったビンに交換します。そして、もう一度偏光板をかざすと…水あめのビンだけが暗く見え、「3」の数字が浮かび上がりました。
偏光板の間に、糖のような光を曲げてしまうような何かが入ると、光が通り抜けられなくなって暗く陰って見えます。この原理を利用して、液晶に対して電気を流し、液晶の分子の向きをずらすことで光を曲げ、狙ったところだけが暗く見えるようにしているのが、電卓で数字が読める仕組みなのです。
では、テレビ等に使われているカラー液晶はどうなのでしょうか。カラーディスプレイには、赤・緑・青のカラーフィルターがたくさん配置されており、その細かさによって「4K」や「フルハイビジョン」等と呼ばれます。このカラーフィルター上にはネマチック液晶が置かれており、そこに電気が流れると光を通さなくなるため、結果的に色を作り出せるようになります。身近なテレビ画面の仕組みを知り、塾生は「なるほど」という表情をしていました。
さて、ついに本日の集大成、2枚の偏光板とセロハンテープを使って、様々な構造色を作り出してみる最後の実験です。塾生は思い思いに色を作っていきます。この偏光板は、紙コップ2個の底をくりぬきそれぞれに1枚ずつ偏光板を貼り付けておくと、万華鏡のようになってきれいに保管できるそうです。
カラフルな実験の数々で、あっという間の90分でした。「今日の話は難しかった部分もあるかもしれませんが、ひとつひとつをよく見てみるとこれまでに学んだことで十分に理解できる事柄だったと思います。」と小原先生。「創造性は、“ものすごいこと”ではありません。ひとつひとつの知識をしっかり手に入れること、そしてその手に入れた知識をどう組み合わせるか、その時に創造性が発揮されるのです。」塾生の皆さんには、最後の小原先生のメッセージを忘れず、これからの学校での学習に励んでいってもらえればと思います!
【記事:因間 朱里(7期生)】