最終日、3限目の実験は開成中学校・高等学校教諭 宮本 一弘先生による「考える科学」です。あまりに身近で、特に意識することなく過ごしている「空気」や「水」を題材に、そこに潜む科学に目を向けました。
まず用意したのは、真空保存容器です。ふたについたポンプを上下させ容器の中の空気を抜いていくとふたが開かなくなります。どうしてでしょうか?
目に見えませんが、空気中にはたくさんの粒子があり、それらが容器やふたを押しています。容器の中の空気を抜いた(粒子の数が減った)ことで、ふたを内側から押す力が弱くなり、外れなくなったというわけです。
さらに、容器の中にお菓子の袋やマシュマロを入れたり、熱湯の入ったビーカーを入れたりして、気圧が減少するとどのような変化が起こるのかを観察しました。特に熱湯の観察では、熱を加えていないのに沸騰が起こったことから、物質の三態変化には温度以外に気圧も関わっていることに気付いたでしょう。
次は、吹き玉の実験です。塾生には、ストローと発泡スチロール球が事前に配られており、これらを使って吹き玉を作っていきます。
まず、ストローの吸い口にハサミで切れ込みを入れて広げます。吸い口を90度曲げ、広げた部分に発泡スチロール球を乗せたら完成です。反対側から慎重に息を吹き込むと、玉が浮き上がりました。盛り上がる塾生に対して、宮本先生は、「球の動き見ていましたか?」と現象の細部に目を向けさせます。
球は回転しながら上下、左右にふらふら動いています。このうち左右の動きは、空気が高速に流れることで起こる気圧の低下によるものです。
続いては、水に関する実験です。塾生たちは、水を張った洗面器と1円玉を用意しています。
水の密度は、0. 99997g/cm3。1円玉の密度は、2.7g/cm3。1円玉の方が密度が大きいため、水に沈むと考えるのが自然ですが、本当でしょうか?
1円玉が水面と平行になるようにして、そっと水面に近づけていきます。すると、不思議なことに水より密度の大きな1円玉が水面に浮かびました。先生はすんなりと浮かべられたものの、何度チャレンジしても浮かべられない塾生も。苦戦していた塾生に対して、先生は「失敗したとしても繰り返しの中でコツをつかんでいくので、1回で成功した人よりも浮かべるコツがわかっているかもしれません。」と失敗することの大切さを教えてくださいました。
1円玉が浮かぶのは、水の表面張力によるものです。この後、2枚、3枚、4枚、5枚…と次々に1円玉を浮かべ、どんな位置関係になるかを観察しました。
最後は、台所洗剤を使った実験です。前の実験で浮かべた1円玉の近くに、洗剤を垂らすとどうなるでしょう?
洗剤を垂らすと、1円玉は勢いよく洗剤と反対側に移動し、最終的にはパタパタっと沈んでしまいました。これは、洗剤に含まれる、マッチ棒状の分子の構造によるものです。マッチ棒の頭の部分は水に溶けやすく、反対側は水に溶けにくい性質を持っています。洗剤を水に垂らすと、水に溶けやすい方が下に向いた状態で、水の表面にきれいに並びます。それによって、表面に浮かんでいた1円玉が押され、洗剤と反対側に移動しました。そして、水の分子の間にマッチ棒状の分子が入り込み、水の分子同士の引き合う力を弱めるため、水の分子の引き合う力によって支えられていた1円玉は沈んでしまうのです。洗剤が油汚れを落とすのもこの構造のおかげです。
続けて、毛糸にラー油をかけて油汚れに見立て、水につけるだけでは取れない汚れが、洗剤を加えると小さな粒となって浮かび上がることを確認しました。
「科学は身近なものに隠れていて、それに気が付くことができるのは、普段からそれを見ようとしているかどうかです。目を向ければ自ずと課題が見えてきます。そして見つかった課題を深めて言って下さい。」と先生は実験を締めくくりました。
何気なく接していたものに、たくさんの科学が秘められていることを知った塾生でした。これからも、生活の中で出会うちょっとした疑問を大切にしていってほしいです。
【記事:野々宮 悠太(6期生)】