五神 真 創造性の育成塾 塾長「光科学最前線への招待(東大総長、理化学研究所房長から見た光科学の最前線)」

五神塾長

全国各地から集まった塾生が講義室に集合し、「創造性の育成塾」第16回夏合宿の開始です。まずは、塾長である五神先生の開塾式『光科学の最前線への招待』がはじまりました。

イントロダクションとして、五神先生は、「今の時代は、新型コロナウイルスによる感染症をはじめとする、地球規模の課題解決が求められている」とおっしゃいました。人類の行動により問題が起こっている状況下で、どのように行動変容を促すかという、塾生たちが生きる“変化の時代”を議論していきます。

「東大から出ていない人生です」と言う五神先生。まずはご自身の経歴紹介から始まりました。五神先生は2015年4月から2021年3月までの6年間、東京大学の総長を務められました。東京大学の学生には、知を持って社会の課題を解決する「知のプロフェッショナル」になってほしいと伝えており、このメッセージが塾生たちにも伝えられます。そのために、「自ら新しい発想を生み出す力」「忍耐強く考え続ける力」「自ら原理に立ち戻って考える力」の3つの基礎力と、多様性を尊重することや、自己を相対化する視野も必要と説きます。

また、総長の仕事ととして、東京大学の入学式での祝辞や、六大学野球での始球式などについても紹介しました。2016年の入学式における、「新聞を読みますか」という祝辞(https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/about/president/b_message28_01.html)を引用しながら、塾生たちに対して「世界の中で日本がどのように見られているかを勉強してほしい」と伝えました。(ちなみに、この講義レポートの執筆者である矢吹は、この祝辞を新入生として聞いていました。今回の講義を受けて、五神先生の当時のメッセージを改めて思い出しました。)

次に、五神先生の研究者としての道の紹介に移りました。「とりあえず物理学を勉強しておこう」と進路を決めた五神先生。当時から、「社会の役に立つことをしたい」と考えていたそうですが、物理学科には、「役に立ちたい」と思って進学する学生はあまりいなかったそうです。それでも、当時、植村泰忠先生の「本当に新しいものをやれば、必ず役に立つ」という言葉を胸に、研究を続けられたそうです。また、大学院での専攻を実験系にするか理論系にするかを迷ったときにも、植村先生の「実験がやりたいならまず実験をやったほうがよい」という助言に従い、大学院の専攻を実験系にしたと言います。そして理学部で学位を取得し、工学部に転出して21年半、工学部で研究を続けられました。

この間に行ったのが、“光を使って物質を極低温に冷やす”という大きなプロジェクト(ERATO五神共同励起プロジェクト)。ここから、様々な面白い研究が生まれているそうです。総長になってからも自分の研究を続けている五神先生は、最後に、ある装置の前でたたずむ写真を示しました。これは、先生が25年間挑戦している研究テーマで、1920年代にアインシュタインが予言した「ボースアインシュタイン凝縮」(※粒子が高い密度かつ極低温で生成された時に、個別の粒子とは全く別の集団として振る舞う現象:東大HPより引用 https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/features/f_00071.html)を実証するための実験装置。まだ誰も実証していないこの現象を、何とか今年中に実証したいと語りました。

続いて、五神先生が専門とする光科学の話題についてです。(1) 光の量子性と光子 (2) レーザー (3) 究極の時計 という3つのカテゴリーでお話しくださいました。

(1) 光の量子性と光子では、「中学生には難しいかな」と言いながら、電磁誘導という現象の話や、「光は波か粒子か」という議論の歴史を語っていただきました。波の図を示しながら、二重スリットを用いた干渉実験で縞模様が見えることを示していきます。

(2) レーザーについて、レーザーの性質として「単色性」「指向性」を挙げ、その原理を語っていきます。講義後の質問では、このパートで語られた「自然放出」と「誘導放出」に関する質問をした塾生がおり、塾生の理解度の高さに感心しました。

(3) 究極の時計では、共同で研究を進めた香取秀俊 教授(東京大学 大学院工学系研究科 物理工学専攻)が発明した「光格子時計」が、10の−18乗オーダーという極めて高い精度を持つことを説明して、塾生たちを驚かせていました。(詳しくはこちらhttps://www.katori-project.t.u-tokyo.ac.jp/index_j.html

講義の終わりに、五神先生は、「変化の時代に生まれたみなさんは、幸運だと思います」と語ります。「この変化をチャンスととらえて、チャレンジを楽しんでください」という、熱いメッセージが送られて、講義は終了しました。

変化の時代を生きる塾生が、これからどのようなチャレンジをして未来を切り拓いていくのか。先輩塾生としても、とても楽しみです。

(5期生・矢吹凌一)

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現職

国立研究開発法人 理化学研究所 理事長
東京大学大学院理学系研究科 教授

略歴

1973年私立武蔵高校卒業、1980年東京大学理学部卒業、1982年同大学院理学系研究科物理学専門課程修士課程修了。
1985年理学博士(東京大学)。
1983年同大学理学部助手、1998年東京大学大学院工学系研究科教授、2010年同理学系研究科教授、2012年同副学長、2014年同理学系研究科長を経て、2015年4月から2021年3月まで東京大学第30代総長。 2021年4月から同理学系研究科教授、2022年4月から理化学研究所理事長。(継続:東京大学教授・クロスアポイントメントによる)
その他、 日本学術会議会員(第23、24期)、未来投資会議議員、科学技術・学術審議会委員、産業構造審議会委員、知的財産戦略本部本部員などを務め、 現在は、経済産業省半導体・デジタル産業戦略検討会議・有識者委員、内閣府・量子技術イノベーション会議・座長、Beyond5G推進コンソーシアム・会長他。

研究業績

専門は光量子物理学、物性物理学。 光量子物理学研究の第一人者であり、光と物質の相互作用と量子現象の研
究、コヒーレント光技術、ナノ構造と光の相互作用に関する研究といった、光
量子科学の広い分野を研究対象とし分野をリードする研究を推進。これら学
術の産業応用への重要性、最先端の国内外の研究者連携のプロジェクトも
多数統括してきた。
2015年から東京大学総長として執務を行いながら、現在も科研費研究代表者としても研究・論文執筆活動を続けている。

受賞歴・著書等

主な受賞:
第 15 回日本 IBM 賞( 2001 年)、第 14 回松尾学術賞( 2010 年)
Fellow of the American Physical Society(2012 年)、 Fellow of the Optical Society of America (2013 年)。
著書: 『変革を駆動する大学:社会との連携から協創へ』(東京大学出版会)(2017年) 『大学の未来地図:「知識集約型社会」を創る 』(ちくま新書)(2019年) 『新しい経営体としての東京大学』(東京大学出版会)(2021年)
The University of Tokyo as a New Type of Management Entity: The Chall enge of Creative Collaboration for the Future University of Tokyo Press) (2021年)