杉山 将 理化学研究所 革新知能統合研究センター長「人工知能研究のこれまでとこれから」

「4時間目でかなり疲れているかもしれないけど、リラックスして聴いてください。わからないことがあったら、質問してください。」そんな優しい言葉から始まった、杉山先生の講義。本日最後の講義は、杉山将先生による、「人工知能研究のこれまでとこれから」です。杉山先生は、理化学研究所・東京大学・企業の技術顧問の3つの立場で、それぞれ、研究者(主に博士研究員)・学生・エンジニアと共に仕事をされています。

AIの研究は、主に5つの柱があります。 1) AI技術の開発 2) AIを使った科学研究 3) AIによる社会的課題の解決 4) AIの倫理的・法的課題への対応 5) AI人材の育成 です。先生はご自身の研究成果として、前立腺病理画像からのがん検出、南海トラフ地震の周期予測、文章の自動評価を挙げました。先生の研究は、幅広い分野にわたっているそうです。

続いて、杉山先生のご専門について。
大量のデータ解析が行なわれる“ビッグデータの時代”である現在、データの背後にひそむ知識を学習する「機械学習」の重要性は高まりつつあります。機械学習には「教師付き学習」「教師なし学習」「強化学習」の3種類があります。

1つめの「教師付き学習」では、人間が教師となり、生徒であるコンピューターの学習を手伝います。ここでは、質問と解答のペアを有限個与えて、解答を教えていない新しい質問に対しても正しく解答できる、ということを目指します。例として、音声認識・画像理解・言語翻訳が挙げられます。この説明を受けて、塾生から、「人間が翻訳する場合に、一つの文からは複数通りの翻訳文が考えられるが、AIもニュアンスを見分けて、最適な翻訳ができるのか」という質問が出され、塾生の理解力の高さに感心しました。

2つめの「教師なし学習」では、教師はおらず、コンピューターが一人で学習をします。ゴールは、勉強した知識から有用なことを見つけ出すことです。ここでの“有用さ”は人間が教えるものです。データの山から情報を“掘り出す”ため、「データマイニング」とも呼ばれます。例として、コミュニティ発見・異常検知・画像生成が挙げられます。

3つめの「強化学習」は、「教師付き学習」と同じく教師の知識を学ぶものの、教師は答えを教えてくれず、代わりに、コンピューターが予測した解答が正しければ報酬をもらえるというものです。コンピューターは、報酬が最大になるように学習をします。例として、ゲームAIやロボット制御が挙げられます。ロボット制御の説明として、バスケットボールをゴールネットに向かって投げるロボットの動画が流され、複数回の投げる試行を経て、強化学習により、ゴールを決められるようになったことが示されました。この動画に関しても塾生から鋭い質問が挙がり、杉山先生も「大変専門的な質問です」と感心されている様子でした。

講義は、さらに専門的になっていきます。
「教師付き分類の基礎」と題して、画像認識を例に、教師付き分類の仕組みや、AIの学習は数学的な定理に基づいていること、また、「教師付き分類の最新の研究」と題して、直線で分類できない場合や、データに雑音がある場合といった、さらなる課題に関する解説が行なわれました。

最後に、まとめと今後の展望として、先生は「未来のAIは必ずしも自律知能である必要はなく、AIは人間に包括されるものであるべき」と言いました。情報科学の技術に、人間の知識、創造性、文化、倫理を融合する、ということです。先生は、「この分野は大変エキサイティングだが、人材不足が深刻なので、この講義をきっかけに将来AIの分野に1人でも来てくれると嬉しい」というメッセージを塾生たちに贈り、講義を終了しました。

本レポートの執筆者である矢吹は、細胞生物学を専門としており、AIについてはそこまで詳しくありません。しかし、細胞生物学の研究においても、細胞画像の分類や遺伝子の発現パターンの解析などで、AIが使用されている例には数多く触れています。ビッグデータの時代に研究をしている者として、AIのことをますます勉強したくなり、私の知的好奇心も、塾生たちと同様に大きく刺激されました。

(5期生 矢吹 凌一)

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現職

理化学研究所 革新知能統合研究センター センター長/
東京大学 大学院新領域創成科学研究科 教授

略歴

1974年大阪生まれ.
2001年東京工業大学博士課程修了.同大学助手,准教授を経て,2014年より東京大学教授.
2016年より理化学研究所革新知能統合研究センターのセンター長を併任.
機械学習の基礎理論とアルゴリズム開発に従事.

研究

・非定常環境に対する機械学習技術の開発:Sugiyama, M. & Kawanabe, M. Machine Learning in Non-Stationary Environments: Introduction to Covariate Shift Adaptation, MIT Press, 2012.
・密度比推定に基づく汎用的なデータ解析技術の開発:Sugiyama, M., Suzuki, T., & Kanamori, T. Density Ratio Estimation in Machine Learning, Cambridge University Press, 2012.
・統計的強化学習技術の開発:Sugiyama, M. Statistical Reinforcement Learning: Modern Machine Learning Approaches, Chapman and Hall/CRC, 2015.
・弱教師付き学習技術の開発:Sugiyama, M., Bao, H., Ishida, T., Lu, N., Sakai, T., & Niu, G. Machine Learning from Weak Supervision: An Empirical Risk Minimization Approach, MIT Press, 2022.

受賞歴

・2007年IBMファカルティ賞
・2014年科学技術分野の文部科学大臣表彰 若手科学者賞
・2017年日本学士院学術奨励賞
・2017年日本学術振興会賞
・2019年Google AI for JapanグーグルAI重点研究賞
・2022年科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞
・2022年FIT船井業績賞

著書等

・杉山 将.統計的機械学習:生成モデルに基づくパターン認識,オーム社, 2009.
・杉山 将.イラストで学ぶ機械学習:最小二乗法による識別モデル学習を中心に,講談社, 2013.
・井手 剛, 杉山 将.異常検知と変化検知,講談社, 2015.
・杉山 将.機械学習のための確率と統計,講談社, 2015.