大島 まり 東京大学生産技術研究所 教授 「医用画像×シミュレーション×AI~医療の新しい展開を考える~ 」

夏合宿2日目。最初の講義は,東京大学教授の大島まり先生による、「医用画像×シミュレーション×AI ~医療の新しい展開を考える~」です。

大島先生は、大学時代から一貫して工学を学び、その中でも機械工学を専門で、現在、バイオメカニクスの研究をしています。これまで機械工学以外にも原子力工学など複数の分野を学んできましたが、共通して「流体工学」を専門に研究をしてきました。それだけではなく、STEAM教育、またテレビドラマの科学監修など、様々な分野でご活躍されています。「私の話を聴きながら、みなさんの未来、20年後にこんなことをやってみたいなと考えてみてください」という塾生たちへの問いかけから、講義は始まりました。

先生は、科学技術を形にして、社会に役立てたいというモチベーションで、工学部へ進んだそうです。また、「今日は理系の研究の話をするが、これからの科学技術は、トランスサイエンス(科学に問うことはできるが、科学だけでは答えることができない)である」と話し、塾生たちに、文系だけ、あるいは理系だけに偏らない視野を持つように促しました。

スライドに、ある男性患者の血管の画像が写し出されました。この患者は、狭窄した血管を内側から再開通させる「ステント手術」を受け、血管が元に戻ったものの、翌日に脳内出血を起こして、再手術になってしまったそうです。このような、副次的に起こる好ましくない作用を事前に予測することができれば、他の手段を取ることができます。

「何で工学の先生が、病気と血液の流れを話すのか、と疑問に思うかもしれませんが」と前置きをしつつ、「手術後の血液の流れを予測することはできるのでしょうか」と塾生に問いました。大島先生は、外から見ることが困難な血液の流れを、医療画像をもとに、データを使ってシミュレーションができるとし、「シミュレーションは、理論・実験に次ぐ、第三の科学」と話します。シミュレーションをすることで、現在の状態を把握することができ、その次のステップとして、未来の予測があるのです。

この“予測”を実現するために必要なのが、正確なデータです。しかし、データには多くの誤差が含まれています。そうした誤差を確率的に見るために、先生の研究では、機械学習を行なっています。

講義の終わりに、大島先生は、「現在はITやAIの発展、グローバル化や情報拡散の高速化により、科学技術と社会の双方が影響し合っている。急激に変化する時代の中で、解答がひとつではない社会課題を解決するために、新しい学びを考えましょう。」と説きました。そして、「夢を紡ぎ、未来を織りなしましょう」という、大島先生が日本機械学会の会長だった際のスローガンをラスト・メッセージとして、講義は終了しました。

(5期生・矢吹凌一)

動画

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現職

東京大学大学院情報学環/生産技術研究所 教授 

略歴 

東京大学大学院工学系研究科原子力工学専攻 博士課程を修了、博士(工学)。 
1992年より東京大学生産技術研究所の助手として勤務、講師、助教授を経て、2005年教授に昇任。2006年より東京大学情報学環 教授と生産技術研究所 教授を兼務、現在に至る。 

研究業績 

主な研究内容はバイオ・マイクロ流体工学。脳動脈瘤や動脈硬化症などの循環系疾患のための血流シミュレーション統合システムの開発に取り組んでいる。また、2011年より東京大学生産技術研究所 次世代育成オフィスの室長を務め、STEAM(Science,Technology, Engineering, Arts, and mathematics)教育にも取り組んでいる。 大学院時代にMITに留学。Engineer’s Degreeを修得。1995年から1996年の一年間、米国のスタンフォード大学へ客員研究員として留学。2017年一般財団法人 機械学会会長を務めた。 

受賞歴・著書等 

[著書] 

  1. 佐久間一郎, 秋吉一成, 津本浩平編 『医用工学ハンドブック』, 「第2編医用工学の基礎知識第3章シミュレーション1 全身循環のマルチスケール血流シミュレーション」, (株)エヌ・ティー・エス(2021) 
  1. 大隅典子, 大島まり, 山本佳世子著, 『理系女性の人生設計ガイド 自分を生かす仕事と生き方』, 「第2章 悩みながらたどり着いた「これだ!」という研究」,「第9章 対談・本当に好きなものを探しながら柔軟な生き方を」, 講談社(BLUE BACKS)(2021) 
  1. 藤垣裕子, 廣野喜幸編,『科学コミュニケーション論 新装版』, 「第8章 出張授業にみる科学コミュニケーション」, 東京大学出版会,pp. 145-153(2020) 
  1. 東京大学新聞社編, 東大2019 東大オモテウラ, 「第3章 後期課程のオモテウラ 大島まり」, 東京大学新聞社, pp.221-223 (2018) 
  1. 桐光学園中学校・高等学校編,『高校生と考える希望のための教科書』(第5章 サイエンスの最新形), 「ひろがるエンジニアリングの裾野」, 左右社, pp. 263-277,(2018) 
  1. 日本計算工学会編, 『第3版  有限要素法による流れのシミュレーション』,「第11章 先端的応用例 11.1医学・医療分野への応用―計算バイオメカニクス」,丸善出版,pp. 271-278, (2017) 
  1. TBS「夢の扉+」制作班, 『夢の扉プラス あきらめない人が心に刻んだ24の言葉』, 「人事を尽くして天命を待つ」,エヌティティ出版,pp. 54-61,(2014) 
  1. 日本評論社編集部, 『物理学ガイダンス』, 「コラム 物理現象を解き明かす方法 理論、実験、シミュレーション」, 日本評論社,pp. 217-222,(2013) 
  1. 谷下一夫, 山口隆美編, 『生物流体力学』, 「3.8 循環器系疾患と血行力学,3.9 血液動態と血行力学的要因について,3.10 循環器系流れの数値シミュレーション」,「8.4 マルチスケールフィジックスによる新しい流体力学の出現」,朝倉書店,pp. 83-100,pp. 229-231,(2011) 
  1. 大島 まり監修, 『図解・世の中が見えてくる 大人の科学110』, 永岡書店(2009) 
  1. 藤垣裕子, 廣野喜幸編, 『科学コミュニケーション論』,「第8章出張授業にみる科学技術コミュニケーション」, 東京大学出版会,pp. 145-157,(2008) 
  1. 日本計算工学会による流れの有限要素法研究委員会編, 『続・有限要素法による流れのシミュレーション』,「第11章 先端的応用例 11-1」,シュプリンガー・ジャパン株式会社,pp.253-262(2008) 
  1. 日本機械学会編, 『機械工学便覧 基礎編α6「計算力学」』, 第7章 熱流体方程式の選択と離散化手法 7・3・1ii. 有限要素法~7・3・2 その他の手法, 第8章 非圧縮性流れ解析手法 8・2 有限要素法による非圧縮流れの解析, pp. 91-93, 107-111, 丸善, (2007) 
  1. 小川誠二, 上野照剛監修,『非侵襲・可視化技術ハンドブック -ナノ・バイオ・医療から情報システムまで-』(第9章 流れの可視化  第7節 数値流体力学による可視化 第2項), 「脳血管におけるImage-Based Modeling and Simulation」, NTS.INC, pp. 961-970, (2007) 
  1. 大島まり他, 東京大学・野村證券共同研究「未来プロデュースプロジェクト」メンバー, 『図説 50年後の日本』, 三笠書房 (2005) 
  1. 日本機械学会編, 『機械工学便覧・基礎編α4 「流体工学」』,「第19章流れの数値解析19・1・2有限要素法」, pp. 212-214,(2005) 
  1. 渡辺正, 東京大学生産技術研究所「工学とバイオ」研究グループ著, 『バイオに学びバイオを超える』,「血流をコンピュータ上で見る-循環器系のシミュレーション解析」pp. 179-194.日本評論社(2004) 
  1. 神部勉編, 『ながれの事典』,「電気泳動-electrophoresis-」,pp. 443-444, 丸善,(2004) 
  1. 神部勉編,『ながれの事典』,「非ニュートン流体」, pp. 443-444, 丸善,(2004) 
  1. 佐賀徹雄, 大島まり,『日本機械学会講習会 実験流体力学-マイクロ流れ実験の基礎と応用-. 東京』, No.04-14, 「マイクロバイオ流」, pp.33-36(2004) 
  1. 『いしかわe-サイエンス2002(第3章流れをみよう)』CD-ROM教材 (2002). 
  1. 井沢元彦, 『井沢元彦の未来講座 言霊社会とサイエンス』, 「科学は何色の花を咲かせるか “生命と人間”とがかかわり合う視点 -次の世代のために出張授業いたします」,第2章,徳間書店 
  1. 日本数値流体力学会有限要素法研究委員会編, 『有限要素法による流れのシミュレーション』,「第8章 乱流解析」,シュプリンガー・フェアラーク東京株式会社,pp. 161-189 (2000) 
  1. O.C.ツィエンキーヴィッツ 他著, 『マトリックス有限要素法II[改訂新版](第13章・第14章)』,科学技術出版社,pp. 519-614 (1996) 

[受賞歴] 

・文部科学大臣表彰科学技術賞(文部科学省)(2022年4月) 

  • 日本計算工学会フェロー認定(2021年11月) 
  • 日本工学会フェロー認定(2019年6月) 
  • 第25回業績賞(日本機械学会バイオエンジニアリング部門賞)(2017年1月) 
  • 業績賞(日本機械学会計算力学部門賞)(2015年10月) 
  • 学術奨励賞 研究奨励賞(計測自動制御学会)(2015年2月) 
  • 精密工学会秋季大会学術講演会ベストプレゼンテーション賞(精密工学会)(2014年9月) 
  • 日本バイオレオロジー学会奨励賞 (日本バイオレオロジー学会)(2014年6月) 
  • The JACM Computational Mechanics Award 

(Japan Association for Computational Mechanics)(2012年7月) 

  • 文部科学大臣表彰科学技術賞(文部科学省)(2010年4月) 
  • 可視化情報学会設立20周年功労賞(可視化情報学会)(2009年7月) 
  • JACM Fellows Award(日本計算力学連合)(2007年12月) 
  • 理事長賞(生産技術研究奨励会)(2007年11月) 
  • The JOV Award(The Visualization Society of Japan)(2007年7月) 
  • 第1回グリッドコンピューティング研究テーマ公募最優秀賞(大日本印刷株式会社)(2005年7月) 
  • 教育賞(日本機械学会)(2004年4月) 
  • 第4回大学婦人協会守田科学研究奨励賞(大学婦人協会)(2002年5月) 
  • 奨励賞 日本シミュレーション学会(1991年3月