2時限目は、昨年(2020年)末に地球に帰還した、はやぶさ2のプロジェクトリーダー・JAXAの津田先生の講義。「関心の高い塾生も多いと思うので、中学生にしてはレベルの少し高いところも含めて話します」と、塾生たちの興味をそそるイントロから始まりました。
まずは、太陽系の説明から。
地球をはじめとした、太陽系の惑星の軌道が図に示されました。
「発見されている小惑星の数はどれくらいあるでしょうか?」と津田先生が問いかけます。その後、スライドに無数の点が示され、「発見されている小惑星の数は107万個もあります」と津田先生。各々にIDはついていますが、名前のついているものは21000個ほどしかないそうです。この図を示しながら、「宇宙は、惑星だけがあるわけではなくて、けっこうにぎやかな空間です」と、講義が進んでいきます。
話は、はやぶさ2の目的地・小惑星リュウグウの紹介へ。先ほどの無数の小惑星が描かれたスライドに、楕円形の軌道が描かれました。これが、リュウグウの軌道です。リュウグウはこの軌道を約1.3年かけて一周します。
リュウグウは天体で、望遠鏡で見ても“点”にしか見えません。研究者は、この“点”から、光のスペクトラムや明滅といった、いろいろな情報を引き出すそうです。(講義終了後の質疑の時間では、この波形からリュウグウの形を予想していたということも紹介されました。)
はやぶさ2の目的地としてリュウグウが選ばれた背景について、津田先生は「リュウグウは光り具合が暗く、黒かった。これが、生命の起源となる炭素や水を意味しているのではないか?リュウグウを調べると水や生命の起源を知ることにつながるのではないか、ということからリュウグウを目的としました。」と説明しました。そして、はやぶさ2は、惑星の探査方法(フライバイ・周回・着陸・サンプルリターン)のうち、最高難度のサンプルリターン(天体まで行ってサンプルを採取し、その後で地球に帰還してくる)を目指すことになったのです。
ここから、はやぶさ2が実際に旅したリュウグウの話に移っていきます。「リュウグウはこんな形でした」と、画像が示されました。この形を見て、そろばんの珠、ダイヤモンド、蛍石、デススター、ラピュタの飛行石…と色々なことを言う人がいたそうです。リュウグウに到着した際には、地形が険しいことがわかり、着陸場所を決めるのに困難を極めました。結果として、プログラムを書き換えて、再送信し、トラブルを解決したそうです。
はやぶさ2がリュウグウに着陸できた瞬間の映像には、津田先生を含めた約50人が管制室の中で拍手し、「歴史をつくりました。おめでとう!」と津田先生が感慨深げにあいさつしている様子が収められています。津田先生は、「はやぶさ2は600人くらいの研究者、技術者、そして海外の宇宙研究機関も参加しています。こうした国際的なチームワークで一つのことを成し遂げるのは、すごく感動的な、やりがいのある仕事です」と話しました。ちなみに、リュウグウに到達したのは人類初なので、名前を自由につけられて、「モモタロウクレーター」「オトヒメ岩塊」といった名前が公式になっているようです。
はやぶさ2が採取したリュウグウのサンプルは、現在様々な解析が進行中であり、ScienceやNatureといった権威ある科学雑誌にその成果が論文として投稿されています。現在解析中の実験から、今後は、太陽系形成史や生命史への展開も期待されています。
最後に、はやぶさ2の将来の話が紹介されました。6年間の飛行に向けて設計されたはやぶさ2は、現在も燃料の半分を残したまま、太陽系空間に残っているそうです。2026年、2031年には別の天体を観測することを目指しているそうです。
最後に、津田先生は、「仕事をするのに必要なのは、勉強とチームワークだ」と言います。勉強は、将来の高い専門性へつながるということ。仕事は、一人ではなくたくさんの人の力で成し遂げられるのだというメッセージです。具体的には、天文学・惑星科学・天体力学・生命科学・有機化学・法学・マネジメント…中学生の塾生にはなじみがないかもしれない、大学における科目が示され、文系理系を問わず様々な分野の力が必要だということが説明されました。
津田先生は「 “夢がかなってうれしいですね”と言われることが多いが、そうではなくて、むしろ、“小さな興味を育てていったら、夢のようなことができた”という感覚です」と言います。はやぶさ2のプロジェクトリーダーになりたい、という具体的な夢を昔から持っていたというわけではなく、“「好奇心+縁」が「夢」になる”というメッセージが伝えられました。
好奇心の強い創造性の育成塾の塾生が、この塾で得た縁を糧に、夢を大きくふくらませること祈りたい。先輩塾生としてはそんなことを感じる時間でした。
【記事:矢吹 凌一(5期生)】
講義動画
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宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所 教授
はやぶさ2プロジェクト プロジェクトマネージャ
■研究業績
「M-Vロケット」の開発,小惑星探査機「はやぶさ」の運用に従事。
また、ソーラーセイル宇宙船「イカロス」のサブチームリーダーとして、世界初のソーラーセイル技術の実現へと導いた。小惑星探査機「はやぶさ2」の開発にあたっては、プロジェクトエンジニアとして技術開発を指揮。2015年より「はやぶさ2」のプロジェクトマネージャ。専門分野は宇宙航行力学、宇宙機システム、太陽系探査。
■受賞歴
学術振興会賞,内閣総理大臣顕彰,文部科学大臣表彰,市村学術賞,IAA Laurels for team achievement award等.
■著書
「はやぶさ2 最強ミッションの真実」(NHK出版)
「はやぶさ2の宇宙大航海記」(宝島社)