8/12 講義⑤考える力の鍛え方 上田 正仁 東京大学大学院教授

※この講義の様子は、動画でご覧いただけます。

「今は、100年に一度の大変な時代です。コロナウイルスによって、私たちは今までの常識が通用しないという状況を経験しています。」上田正仁先生は、そう言って講義を始めました。「この状況では、私たちは色々なことを一から考え直さなければなりません。そこで、『考える力』が重要になってきます。」とのことです。

今回のテーマは、「考える力の鍛え方」。これから学びを進めていくうえで重要な「考える力」を、どのように鍛えたら良いのか、興味深い講義が始まります。

人間の能力には、「マニュアル力」「考える力」「創造力」の三種類があるといいます。

「マニュアル力」とは、答えが一つの問題を時間内に正確に解く力のことで、試験で測ることができます。学問や社会でも、質保証や、言語を学ぶという点で重要になってくる力で、他の二つの力の基礎・基本にもなる力です。「考える力」とは、一つの問題を長時間考えて答えにたどり着く力のことで、根気強く考えることができる力です。「創造力」とは、自ら課題を見つけて、独自の解決策を編み出す力のことです。答えが存在するかどうかもわからない問題に、諦めずに取り組んでいかなければならないので、根気強く「考える力」が基本となってきます。マニュアル力は考える力の基礎であり、想像力を発揮するためには、考える力が必要。それぞれが相互に密接な関係があるので、地道に勉強を積み重ね、これらの力をそれぞれに伸ばしていくことが必要だと上田先生は言いました。

人生の段階によって、評価される力が違ってきます。高校までは「マニュアル力」、大学では「考える力」、大学院や社会では「創造力」が求められます。それゆえに、“優秀な人”は、各段階で変わってくるのです。高校まで目立たなかった人が大学や社会に出て力を発揮することはよくあります。逆に、生まれてから高校までは、マニュアル力が評価されますが、それに慣れてしまうと、大学や社会に出た時に戸惑ってしまいます。そこで大切なのは、この変化を理解して心の準備をすることだと、上田先生は言います。そうすれば、現在の努力の意義を理解し、動機付けをすることができるのです。

講義途中の質問タイムでは、何人もの手が上がり、上田先生は一つ一つ答えてくださいました。普段の勉強で考える力を鍛えるにはどうしたら良いのかという質問には、上田先生は、わからない問題があっても、諦めずに長時間考えようとすることが必要だと言います。「ある問題を30分考えてもわからなかったら、焦って答えを見てしまう人がいると思いますが、そこでひと踏ん張りして、何時間も考え続けて答えにたどり着いたら、その人はおそらく、その次に同じレベルの問題が出たら、自力で解くことができるでしょう。一見回り道に見えるかもしれませんが、考え続けるのが一番近道なのです。

最後に上田先生は、「諦めない人間力」について話します。マニュアル力から考える力、創造力に発展させる際、諦めない人間力は絶対に必要になります。難しい問題を考えるとき、または自ら見つけた答えがあるかどうかもわからない課題に取り組むとき、諦めてしまえばそこで可能性はなくなってしまいます。自分の可能性を伸ばしたいと強く願って、問題を諦めずに考え続けることが、成功への究極の鍵になると上田先生は言いました。

「今回お話したことを勉強する時に思い出して、三つの力を伸ばしていってほしいと思います。」上田先生は最後に塾生たちにそうメッセージを送りました。

【記事:田中 咲絵(14期生)】

講義動画

※この講義の動画公開は終了しました。(23.8.28)

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現職

東京大学大学院 理学系研究科(物理学専科)教授 他

研究業績
大学院で最初に行った研究は光子数の連続測定の理論。その後、メゾスコピック系の物理や多自由度系のトンネリングを研究。原子気体のボース・アインシュタイン凝縮が実現されてからは冷却原子気体の研究。また、情報と熱力学とを融合する研究を行う。最近は、非平衡開放量子系や機械学習の基礎の研究を行っている。

受賞歴
2002年 (財)松尾学術振興財団 松尾学術賞
2007年  文部科学省 文部科学大臣表彰科学技術賞研究部門
2008年 (財) 仁科記念財団 仁科記念賞
2009年  日本学術振興会 日本学術振興会賞

著書
「東大物理学者が教える『考える力』の鍛え方」
「東大物理学者が教える『伝える力』の鍛え方」 他

 

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