※講義の様子を、映像でご覧いただけます。
夕食後、塾生たちは再び講義室に集まります。有馬塾長による、閉塾式です。
塾生たちは、一人ずつ前に出て、有馬先生から修了証書を受け取ります。全員が受け取り、席に戻ると、講義が始まりました。
「くたびれたかな、大丈夫かい?」そんな、優しい言葉から講義は始まります。
原子核の構造を説明し、クォークの説明を進めていきます。「面白いことに、自然界には貝殻構造がたくさんある。太陽系も原子核も、貝殻構造を持っている。」「鉛208は安定原子核である。陽子数・中性子数とも閉殻になっており、大変安定である。」
話は、有馬先生ご自身の研究につながっていきます。
「鉛208に陽子を1つ加えたビスマス209の磁気モーメントは、加えられた陽子の磁気モーメントだけを考えればよいだろう、と考えていた。しかし、この方法で求めた計算値と、実験値が大きくずれた。」ご自身が大学院生だった頃に疑問だったことを話していきます。
「月が太陽の周りをまわると、潮汐運動が起こる。これと同じように、この現象を説明できないか。」と、ふと思いついたそうです。すなわち、鉛208の表面の陽子や中性子が、小さなさざなみを立てる、と考えるわけです。この影響を考慮したところ、計算値と実験値のずれを説明でき、当時共同で研究していた堀江先生の名前と合わせて「有馬・堀江効果」と呼ばれるようになったそうです。そして塾生たちに、「不思議なことをじっくり考えて追及することが大事」と語りかけます。
有馬先生自身の研究の話が続きます。
「ボゾン模型を用いて、原子の励起状態のエネルギーを式で表せる。」中学2年生ではまだ見たことのない文字が並んだ数式がスクリーンに示され、「1つの理論で種々の状態の予測が、統一的にできる。」と、まとめられました。
「中国の学生もいるから、中国の物理学者の話もしておこう」と、先生。
「Kメソンという粒子は、2つのπメソンを出して壊れたり、3つのπメソンを出して壊れたりする。このとき、パリティが-1と+1になってしまう。なぜ2つの異なる状態に壊れるか。欧米では自然界でパリティが破れるはずはないと考えられていた中、この『パリティが破れてもよいではないか』と唱えたのは、李政道と楊振寧でした。」そして李先生と楊先生は、実験方法も明らかにし、ノーベル賞を受賞しました。
その後、南部・小林・益川の各先生方(2008年ノーベル物理学賞)の研究内容を紹介した後で、「物理の世界で、重要な保存則のわずかな破れを発見したのは、中国や日本などアジアにルーツを持つ人々。対称性を強く感じる西欧人とは異なる。」と、欧米とアジアの対比を話されました。「自信を持て。大きな夢を見よ。くじけるな。健康を大切に。21世紀のアジアと人類のために活躍せよ。」力強いメッセージが送られ、講義は終了しました。
私が育成塾に参加して、早くも8年が経過しました。8年前にも、このような原子物理学の講義がありましたが、当時は内容が全く理解できず、苦い思いをしたことを強く覚えています。
13期生にも、当時の私と同じような思いをした人がいたと思います。彼らの中にあるこの思いが晴れる日を夢見て、成長したのちに再び会えることを楽しみにしつつ、講義レポートの執筆を終えたいと思います。
(5期生 矢吹凌一)
講義の様子を、映像でご覧いただけます。
映像の公開は終了しました。(23.8.28)
・修了書授与
・有馬塾長による講義
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