OBOGによる科学オリンピックガイダンス

科学オリンピックは世界の高校生が各分野の知識や技能を競う国際大会であり、2時限目は国際大会に出場経験のある育成塾OBが塾生に各オリンピックの説明をします。

まず、13期生の渡邉 雄斗さんによる「情報オリンピックへの誘い」。
渡邉さんは2021年の第34回国際情報オリンピックで銀メダル、2022年の第35回国際情報オリンピックで金メダルを獲得しています。
今回は大学のあるシンガポールから、オンラインで講義してくれました。

競技プログラミングは、問題を解いて、アルゴリズムを考えて、それをプログラミングして競うものだとのこと。スライドにはあみだくじのスライドが映し出されます。5本のあみだくじの両端には上から1、2、3、4、5と番号がふられており、左で1を選ぶと右では3に到達します。

次に、このあみだくじを2つ組み合わせたものを考えます。
1つ目のあみだくじで1を選べば3に到達するので、2つ目のあみだくじでは3を選んで4に到達します。このあみだくじをさらに3、4、・・・、1億、10億個と増やしていくと、単純にあみだくじを繰り返すのでは、たとえコンピューターを使ったとしても膨大な時間がかかってしまいます。
「どうやったら効率的に計算できるでしょうか。みなさん考えてみてください。」という渡邉さんの問いに、塾生たちは真剣に考えます。あみだくじに数字を入れてみると1→3、3→4、4→1となり、あみだくじから出てくる数字は1、3、4のループになっていることがわかります。これはあみだくじの形によらず絶対1に戻ってくるので数のループとして考えることができます。

「よく分からないと思うので、ここでアルゴリズムの説明をします」と渡邉さん。簡単なアルゴリズムを紹介するために渡邉さんが用意したのが「最短経路問題」。図には、複数の丸とそれらをつなぐ線、線の横に数字が書いてあります。丸が都市、線が道路、数字が道路の長さを表しています。都市Sから都市Gまでの最短経路の距離はどれくらいでしょうか、という問題。これは、ダイクストラ法というアルゴリズムを使えば解けるそうで、ルービックキューブの最短手数を求めるときなどに活用されています。

情報オリンピックでは、一人一台パソコンを使い、与えられた問題に対して「どんな値が与えられても正しい答えを返すプログラムを書く」というのが基本。採点は機械が行い、競技時間内に何度でも提出できるのが特徴です。渡邉さんは事前に配布した情報オリンピックの問題について「興味のある人はぜひ資料にある問題を解いてみてください!」と締めくくりました。

次に、6期生の茂木隆伸さんによる「地学オリンピックへの誘い」。茂木さんは、高校3年生の時に、第9回国際地学オリンピックブラジル大会に出場し、銅メダルを獲得。現在は、東京大学でヒトデの骨の研究をしています。もともと生物が好きという茂木さんが地学オリンピックに出場に出場するきっかけは、育成塾で配られたチラシに恐竜が描いてあったからとのこと。恐竜に惹かれて応募してみたところ、中学三年生で一次通過。いつの間にか地学の世界に入っていたそうです。

地学オリンピックは、主に筆記試験と実技試験が行われます。筆記試験は、火山や地質、気象など地学の様々な分野から出題されます。また、実技試験は、岩石の鑑定や観測などを行います。

地学オリンピックの特長は、開催地のご当地性。その国や場所の特色、その場所でしか起こらなかった現象がそのまま問題になるそうです。
他にもエクスカーションという遠足や、国籍がバラバラのチームで野外調査に出かけるITFI、気候変動などについて考えるプログラムであるESPといった、各国の参加者と交流ができる機会もたくさんあるとのこと。茂木さんは、「言葉も得意分野も違う人たちと協力でき、達成感があるイベントです」と言います。国際地学オリンピックに出場するには、国内予選と本選(日本地学オリンピック)、最終選抜を勝ち抜く必要があります。

最終選抜を勝ち抜き、日本代表になった後は、代表研修。合宿もあり、鑑定など実技の強化を行うとのこと。「地学オリンピックはご当地イベント性があり、協力する場面もあり楽しいです。試しに予選だけでも受けてみませんか?」と話を締めくくりました。             

最後は、8期生の海士部祐紀さんによる国際化学オリンピックのお話です。海士部さんは2016、2017年に国際化学オリンピックに出場しており、両大会で銀メダルを獲得しています。

初めに、国際化学オリンピックの説明を始める海士部さん。化学オリンピックは年に1回、高校生の各国の代表が個人戦で戦うものです。試験は筆記と実験が各5時間と長丁場で、問題は各国の引率の先生によって翻訳済とのこと。競技以外の側面も充実しており、他のオリンピック同様エクスカーションと呼ばれる遠足があります。これは試験日より明らかに多く、「異国の地で経験や他国の生徒との交流も大切にされている」と海士部さんは話します。

海士部さんは「代表生徒になるまでの過程には3ステップあります」と言います。1つ目は前年7月の海の日に開催される化学グランプリ、2つ目は1月に行われる代表合宿、3つ目は3月に行われる代表選考です。化学グランプリで日本代表候補に選ばれると、大学の学部生レベルの教科書が贈呈されるだけではなく、大学の先生から集中講義を受けたり、先生にメールで分からないところを質問できたりと代表選考に向けて手厚いサポートを受けることができます。

国際化学オリンピックに参加するメリットは、異国の同世代の生徒と過ごす経験ができること、世界各国のレベルの高い生徒の存在を実感しモチベーションが上がること、高校生のうちから大学レベルの化学に取り組みやすい環境があることであると、海士部さんは言います。「これは国内の化学グランプリにも共通するのですが、化学を熱心に勉強している仲間に出会えるのも魅力の一つですね」とのこと。大学進学後も続く繋がりができることもあるそうです。

「国際大会を目指すのも歓迎しますが、まずは純粋に化学を楽しむことが大切です。各分野にオリンピックが存在するので、化学分野以外にも目を向けて自分が一番好きなモチベーションを持てる分野で国際大会を目指してみてください」と最後は塾生に向けて熱いエールを送りました。

講義中、「科学オリンピックに興味はある人は?」と聞かれ、多くの塾生が力強く手をあげており、質疑応答でも塾生からは、勉強法や出題傾向と対策などについて質問が相次ぎいていました。目を輝かせていた17期生の中から科学オリンピックのメダリストが生まれる日も近いかもしれません。

(11期生 岸田彩花)