「医用画像×シミュレーション×AI ~医療の新しい展開を考える~」大島 まり 東京大学大学院情報学環/生産技術研究所 教授

合宿3日目の2時限目は、東京大学大学院情報学環・生産技術研究所の大島まり先生による「医用画像×シミュレーション×AI ~医療の新しい展開を考える~」というテーマでの講義です。大島先生は、バイオ・マイクロ流体工学の第一人者であり、血液の流れを力学の観点から観察し、病気の原因や進行のメカニズムを解明する研究をされています。

初めに、先生は、科学技術と社会がいかに密接に関わっているかを解説しつつ、社会的な価値が機械など形あるものから、知識や情報など形のないものへと変化してきたと説明されました。そして、理系が好きだという塾生たちに向けて、「今の科学技術は、もう科学だけでは答えることはできなくなっています。だから、いろんなものにアンテナを張ってほしい」と話されました。そして、「急激に変化する時代の中で、答えが1つではない社会課題を解決するために、20年後の自分を想像しながら、新しい学びを考えましょう」というメッセージとともに講義を始められました。

先生は、実際の脳内出血の患者さんの血管の画像を見せながら、緊急手術で行った処置によって、別の部分が破裂してしまった事例を紹介。こうしたリスクを事前にわかっていたら別の手術法をとることができた、それを予測するのが自分の研究だとお話しされました。

ここで、先生は塾生たちに血管についてのクイズを出しました。
血管の長さをすべて合計すると地球何周分か?答えは、地球の2周と4分の一に相当する約9万㎞。他にも、一番太い血管、一番細い血管の直径はどのくらいかなど…塾生たちは自分の体内にある血管を想像しながら手を挙げました。一番細い血管は、目で見えないほど細いという先生のお話には、塾生からは驚きの声がもれました。このように、長く、細く、体中に張り巡られた血管、血液の流れは、シミュレーションを用いなければ、当然解き明かすことはできません。

講義では、理論、実験に続いて“第三の科学”と言われるシミュレーションについての説明や、シミュレーションを用いた実際の患者さんの術前・術後の三次元の比較データを示しながら、その必要性をお話しいただきました。

”状態の把握”に続く次のステップは、術後の血行動態の予測です。
その際に、医用計測データの持つ不確かさがシミュレーションに及ぼす影響についてもお話がありました。不確かさを完全に取り除くことはできないので、不確かさを含んだ状態で計算する必要があり、その時にはAIを使うとのこと。続いて、シミュレーション技術の医学・医療分野での利用展開のお話がありました。

最後に、先生は、現在は分野問わず、様々なバックグラウンドの人が共同で社会的な課題に取り組んでいることに触れ、好奇心・自分で考える力・コミュニケーション能力の大切さについて話されました。そして、「夢を紡ぎ、未来を織りなしましょう!」という力強いメッセージとともに、講義を締めくくりました。

質疑応答の時間では、「脳卒中の研究を始めたのはなぜか」という質問や「研究する中で何が大変だったか」などの質問に丁寧に答えてくださいました。前日に医療分野の講義を受けていた塾生にとって、工学の側面から医療に取り組むお話を伺えたのは、一つの物事を様々な分野からアプローチする科学の面白さを実感する良い機会になったと思います。

(12期生 山崎和奏)

講義動画


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