「異常気象と気候変動の関係を考える」山形 俊男 海洋研究開発機構 特任上席研究員

2時限目は、大規模現象や海洋起源の気候変動現象の解明において多くの先駆的な業績を挙げ、世界の大気海洋変動予測科学を推進されてきた山形俊男先生の講義です。山形先生はご自身のことを世界中の気象現象を調べて名前をつける「クライメイトハンター」だと言ってにこやかに講義を始められました。

「皆は、地球は特別な惑星だと思う?実はそんなことないんだよね」
講義が始まると早速、塾生は山形先生の語りに引き込まれます。地球を特別視しない考え方は「コペルニクスの原理」と呼ばれ、現代では宇宙物理学などの分野で重要な概念となっています。この考え方を使うと、現代人に残された時間を推定することができ、今まで過ぎ去った時間が約20万年なのに対して、最短5000年、最長で780万年程度だそうです。山形先生は「短い時間だからこそ、残された時間をいかに有意義に過ごせるかが重要だ」と言います。

地球環境の変化と変動は、核兵器と同様に、人類の生存を脅かす大きな脅威であるとのこと。そのため、持続可能社会の実現に向けて努力する必要があると山形先生は塾生に訴えます。

「これからの話を理解できるように理科のお勉強をしましょう」山形先生はそう仰ると、圧力傾度力、コリオリの力、エクマン輸送、角運動量といった気象現象を理解する上で重要な概念を先生なりの言葉でわかりやすく説明してくださいました。

基礎知識を学んだところで、エルニーニョ現象を始めとする異常気象・海の説明に移ります。特にご自身が見つけた「ダイポールモード現象」に関しては、現象の存在を認められるまでを様々なエピソードを交えてお話ししてくださいました。

この発見については、異論を唱える人もいたそうですが、議論の末に認められ、和解したそうです。また、ENSO指標と現象模式図の説明の際には「自然の奏でる音楽を聴いてほしい」と、それに音階を当てたものを流してくださり、塾生も普段することのない体験を楽しんでいました。

気候変動が起因の異常現象は社会に甚大な影響を与えます。オーストラリアの小麦収穫量と気候変動の関係に関して、通説では、エルニーニョ現象によって小麦収穫量が減少していると考えられてきましたが、山形先生はデータから適切に調べることで、正のダイポール現象が真犯人であると結論づけました。「相関関係と因果関係は別物。データから適切に因果関係を導くこと、みかけの(擬似)相関に騙されないことが大切」と山形先生は塾生に伝えます。

最後に、山形先生はご自身の研究人生を振り返りながら「国境、宗教、人種を超えて交流して、異論を唱える人との戦いあったとしても、素晴らしい出会いもある」「絶えずいろいろな未来がある。選んだものは徹底的に取り組んでほしい」と講義を締めくくりました。

(10期生 岸田彩花)

講義動画


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