「iPS 細胞技術と健康長寿」岡野 栄之 慶応義塾大学医学部教授

合宿2日目の4時限目は、慶応義塾大学医学部生理学教室教授の岡野先生による「遺伝子と細胞:基礎から再生医療・創薬へ」というテーマでの講義でした。講義の冒頭は、先生のこれまでの学問への興味の移り変わりについてお話がありました。先生が高校の時に生物学の講義で興味を持ったエピソードは、塾生にとって身近な話だったと思います。また、おすすめの本のご紹介もありました。

細胞の個数の話から始まり、遺伝子と細胞の関係について、そして単純なところから始まり複雑化していくヒトの発生過程、37.2兆個もあるヒトの細胞がどのようにして作られるかなどのお話がありました。
ES細胞が多能性幹細胞といわれる理由の説明やヒトES細胞を用いた再生医療の標的疾患についてのお話の後、糖尿病を例として、ES細胞が役立つ場合と、逆に移植後の拒絶反応などES細胞の持つ問題点についてお話してくださいました。問題を回避するためにも、初期化因子の同定が重要であり、そのために、データベースによる候補探しをしたというお話の中では、実際に塾生にクイズ形式で聞くことで、理解を深める工夫をしてくださいました。

細胞について理解したところで、IPS細胞の医療応用への可能性について。
マウスIPS細胞を用いたマウスの脊髄損傷の治療、再生医療についてのお話では、動画を流しながら、IPS細胞がいかに治療に役立つかを分かりやすく説明してくださいました。実際に先生がかかわった再生医療等提供計画の経験のお話は大変興味深いものでした。この計画の中には世界初の手術もあり、実際に執刀した岡野先生からお話を伺えるのは、塾生にとって、非常に貴重な経験になったと思います。

最後には筋萎縮性側索硬化症(ALS)を例として、IPS細胞を用いた病態研究の話がありました。漫然と基礎研究をしているだけではわからないことが応用研究にはあり、基礎研究と応用研究を必要に応じて使い分けることが必要とのことでした。

最後に、「若い人たちには無限のチャンスがあるから、自分が本当に何をしたいかを考え、限りなく高い目標をたてよう」「一人でしようとはせず、目標を達成するための最高のチームを作ろう」「医学はいつの時代にも人類に貢献し続けなければならない」「科学は、不治の病に勝利する」ということをお話ししてくださいました。医学の分野に進むかどうかにかかわらず、最後のメッセージは、塾生の胸に力強く響いたと思います。

質疑応答の時間では、「血糖値を下げるためにインスリン投与することでどのような副作用が起きるか、ということを具体的に知りたい」という質問や「IPS細胞と、ES細胞の違いをより詳しく知りたい」という質問に丁寧に答えてくださいました。

(12期生 山崎和奏)

講義動画


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