「SDGs・VUCA・AI 時代を生きる君たちへ 」鈴木寛 創造性の育成塾 塾長代理
夏合宿の最後は、塾長代理の鈴木寛先生による『SDGs・VUCA・AI 時代を生きる君たちへ』です。冒頭、初代塾長の有馬朗人先生の写真を示して、「この先生を知っていますか?」「有馬先生!」という、鈴木先生と塾生のやり取りから講義がスタートしました。
有馬朗人先生は、原子核物理学者であり、東京大学総長、文部大臣などを歴任されました。鈴木先生は、「有馬先生が一番やりたかったこと、亡くなる直前まで頑張られていたことが、この『創造性の育成塾』です」と話します。こうした有馬先生の思いを引き継いで、2020年に先生が亡くなられた後も「創造性の育成塾」は続いています。
講義のはじまりは、鈴木先生が高校生の頃に考えていたことについて。
先生は、「創造性の育成塾」の他の講師とは異なり文系で、通産省の官僚や文部科学副大臣などを経て、教育や医療、スポーツなど多岐にわたる政策づくりに携わってきました。「研究者以外にも、科学者を助けたり応援したりする仕事があると知ってほしい」と、ご自身のお仕事について語りました。
中学生時代には物理学者、高校時代には脳科学者、またオペラ歌手にもなりたいと思っていた鈴木先生。それと同時に、弱小だったサッカー部をマネージャーとして市優勝へ導いた経験などから、様々な人の知恵や情熱を一つの形にしていくことに魅力を感じ、高校3年生の秋に官僚になることを決心したそうです。「その時は、他の夢をあきらめた気がしていた。だけど、結局、今やっていることに全部関わってきている」と先生は言います。
「今日は公共哲学の話のさわりをします」と、鈴木先生。2022年度から高等学校の必修科目となった「公共」。先生はこの教育改革と教科書作成にも関わっています。先生は、現在は新しい時代への過渡期であるとし、物質的な豊かさが重要だった近代の終焉 “卒近代”を提唱しています。一つ前の講義で杉山先生が話したAIについても触れ、「マークシートで測れる力ではなく、今後は問う力が重要。今回の合宿の最大のメリットは、全国に対話する親友ができたということ」と塾生たちに言いました。そして、「未知のものや想定外のものに遭遇した時、学問を修めている人はそれを冷静に受け止められる。そのために私たちは学ぶ必要がある」として、“純粋経験”の大切さを説いた西田幾多郎や福澤諭吉、吉田松陰などの言説を紹介しました。
ここからは、ディスカッションの時間。先生から次のようなテーマが出されました。
「新型コロナで患者が市民病院に殺到しています。病院長であるあなたは、医療従事者以外にどんな人から優先的に入院させますか」。選択肢は、「重症度の高い患者から」「ケアの必要度が高い家族がいる患者から」「先着順」などの9つ。ここから優先順位の高い3つを選びます。
塾生たちは4人ずつのグループになって話し合います。「選べなくない?」と戸惑いながらも、「まずは重症度が高い人」「両親がコロナになって赤ちゃんも一緒に入院したニュースを見たけど、これが増えたらまずい」など、様々な意見を出し合い、議論を行なっていました。全10グループの回答を比べると8グループが異なる回答に。同じ問題を慶応大学の学生や3つの生成AI(ChatGPT、 Bird、 Bing)に問うと、これらもまたそれぞれ異なる回答を示したそうです。
この問題に対して、功利主義、リベラリズム(自由主義)、リバタリアニズム(自由原理主義)、義務論といった先哲の考え方を紹介し、「義務論を唱えたカントは、結論はどうなろうと目の前に困っている人がいたらまず助けるのが人間の倫理であるとした。だから“重症度が高い人”を一番に選んだ人は、カント派です。」と、先生は解説しました。
しかし、どれも正解だが、すべての人を助けることはできません。先生は、「一つの個別・暫定解で合意形成をする必要がある」と言います。すなわち、正義が複数ある中で判断をしなければならないということです。政治の仕事はまさにこれで、「このように板挟みになる仕事はとても重要であり大変。」そして、「サイエンスの問題は自然科学・社会科学の色々な人が協力しないとできない。だからたくさんの友達を作ってほしい」と先生は話します。
講義の最後、塾生たちに向けて、「強い決意をもって、仲間を作れば、君たちは何でもできる」と話しました。26歳の若さで芦屋市長になった「すずかんゼミ」卒業生である髙島崚輔氏のことを例に挙げて、「みなさんも12年後に市長になっているかもしれない」「明治維新で若い人たちが社会の最前線に立ったように、近代から次の時代への過渡期に生まれた君たちが、これからの社会をつくる」と塾生たちに語りかけました。
そして最後に有馬先生の写真を示し、「ここで出会った仲間が協力し合って、Well-beingな地球を作ってほしい。有馬先生も応援していると思います」という、力強いメッセージが送られて、講義は終了しました。
講義の後、閉塾式を行いました。
塾生たちは順番に、鈴木先生から修了証を受け取りました。5日間の夏合宿を経て、一回り成長した塾生。ここで出会った創造性の育成塾17期生は、この夏合宿で何を学び取り、これからどのような世界を創っていくのか。先輩塾生としては、とても楽しみです。
(5期生 矢吹凌一)