「人工知能研究のこれまでとこれから」杉山 将 理化学研究所 革新知能統合研究センター長
あっという間に夏合宿の最終日を迎えました。1時限目は、機械学習の基礎理論やアルゴリズム学習の研究をされている杉山将先生の「人工知能研究のこれまでとこれから」という講義です。先生は、「将来の人工知能研究がどこへ向かうべきか考えて聞いてほしいです」とおっしゃっていました。先生が「ChatGPTを使っていますか?」と質問すると、3分の2くらいの塾生が手を挙げました。ここ最近、AIの存在はより一層身近になっているようです。
先生がセンター長を務める理化学研究所革新知能統合研究センター(AIP)には、①次世代AI基盤技術の開発(統計・最適化理論など) ②AIを使った科学研究の加速(がん・材料開発など) ③AIによる社会的課題の解決(ヘルスケア・災害など) ④AIをどう使うべきかという倫理的・法的課題への対応(倫理指針の策定、公平性・信頼性の基準策定など)⑤AI研究者の育成―という5本柱があります。②AIを使った研究の加速については、毎日発表される大量の論文をAIに読ませて研究に活用することがあるそうで、「AIを効率よく使わないと、研究すらできない時代になってきています」と話されました。そして、「一見関係ないと思っている分野でも、AIを使うのが当たり前の未来はすぐそこに」という先生の言葉を、塾生は興味津々な様子で聞いていました。
講義はまず、AIの学習についての説明から始まりました。そもそも、AIが学習するとはどのようなことなのでしょう。先生は、データの背後に潜む知識を学習する機械学習の基礎として、教師付き学習、教師なし学習、強化学習を紹介しました。
教師付き学習とは、AIが、どんな質問にも答えてくれる教師(人間)にさまざまな質問をし、答えをもらうことで、教師から教わっていない無限の量の質問にも答えられる能力(汎化能力)を獲得することです。声をテキスト化する音声認識や画像認識などに用いられています。
教師なし学習とは、AIが持っている知識から「有用なこと」を見つけ出すものです。「有用なこと」を人間が決めて設定し、AIはその設定のもとに膨大な情報を検索します。SNSのコミュニティを見つけることや、画像生成などに用いられています。
強化学習とは、教師(人間)からの質問に正しく答えると報酬がもらえるようにすることで、AIを報酬目当てに学習させるものです。教師が答えを知らなくてもAIが学習してくれるので、ゲームAIやロボット制御などに用いられています。最初からうまくいくわけではなく、何度も失敗と成功を重ねて学習していくため、事故を起こしてはいけない自動車の自動運転などに用いる際、どのように学習をするのかという課題が残っています。
続いて、AIがテストデータを正確に予測するための統計的学習理論、データの分類器、深層学習など、教師付き分類の専門的なことにも触れました。例えば、簡単にデータを分類できないときは、高次元の空間にデータを移し、分類境界をつくっているそうです。
講義では、塾生からたくさんの質問が寄せられ、先生は一つ一つ丁寧に答えてくださいました。「学校の先生の立場がなくなるのではないか」という質問には、「AIはこれまでの情報をもとに教えることはできるが、最新の情報は人間しか伝えることができない。また、学校で人間同士で議論することも大切だ」というお話がありました。
「ぜひ一人でも多くの皆さんにコンピュータ科学に興味を持ってもらえれば」という先生の言葉は、これからのAIをつくるかもしれない塾生に届いたのではないかと思います。
(15期生 青島 日差子)